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第5話

「放してください!」  助けを求めようと辺りを見回すが、店を出入りする客らは、知らん顔をしている。トラブルに巻き込まれたくないのだろう。必死に抵抗していた、その時だった。不意に、ドスの効いた男の声がした。 「てめえら、何やってる!」  優真を捕らえていた二人の力が、ふと緩む。突如、五人の黒スーツ姿の男たちが現れたのだ。じわじわと、若者たちを取り囲んでいる。その顔ぶれを見て、優真ははっとした。月城組の組員たちではないか。 「東郷組(とうごうぐみ)のチンピラが、うちのシマでなめた真似してくれてんなあ?」 「ちょっと来てもらおうか」  若者たちは逃げ出そうとしたが、男たちは彼らを捕まえると、停めてあった車に素早く押し込んだ。そして、あっという間にどこかへ走り去って行く。  優真は、その光景を呆然と見送っていた。すると、今度は別の車が寄って来た。中から出て来たのは、優真がよく知る男だった。 「(じょう)さん!」  最初に事務所で会った、アパレル社員風の茶髪だ。舎弟頭だという二十七歳の彼は、朝晩の優真の送迎にも同行してくれている。年も近い上、気さくで明るい彼とは、かなり打ち解けつつあった。 「立花さん、お怪我はありませんか?」  城は、心配そうに駆け寄って来た。今日も、洒落たスーツを身にまとっている。メンズコロンの香りもした。 「あ、はい。ありがとうございます……。あの、さっきの人たちって暴力団、ですか? 東郷組、とか言ってましたが……」  城は、不快そうな顔で頷いた。 「正式な組員じゃないすけどね。半グレっす」  半グレ、という言葉は優真も知っていた。暴力団の下っ端のような役割を果たす、不良集団だ。すると城は、意外な言葉を続けた。 「しかし早速だったなあ、山下の野郎……。でも、奴本人はいなかったっすね」 (――え?)  優真は面食らった。

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