26 / 70

第9話

 二人して三階の部屋に入ると、氷室は優真をじろりと見た。 「何だ? 話というのは」 「昼の電話の件です。謝りたくて」  優真は、深々と頭を下げた。 「後で気づきました。僕の安全を考えてのことですよね? 一方的に非難して、すみませんでした」  山下と東郷組の関係については、あえて口にしなかった。城が漏らしたとわかれば、氷室はまた彼を叱るだろう。すると、氷室の方から話し出した。 「ああ。もう東郷組と関わっちまったらしいから話すが、あの山下ってガキは、そこのチンピラだ。最初に会った時からピンときてたが、あえて黙ってた。お前が怖がると思ってな」  そういえば、念書を見た向坂と城も何かに気づいた様子だった、と優真は思い出した。 「あんな野郎とお前を同じ建物に住まわせるなんて、冗談じゃない。それに下手したら、あれがきっかけで抗争になるかもしれねえ」 (抗争!?)  背筋がぞくりとする。氷室は、そんな優真を安心させるように微笑んだ。 「大丈夫だ。山下みたいな末端の野郎の揉め事なんざ、東郷組だっていちいち相手にしねえよ。それでも念のため、しばらくはここに住め」  確かに電話でも、氷室は『当面は』と言っていた。本当に自分は何も知らなかったのだ、と思い知らされる。

ともだちにシェアしよう!