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第5話
その時、よく知る声がした。
「立花さん!」
はっと振り返れば、スモークガラスの車の後ろから、別の車が走って来た。後部座席の窓からは、城が顔をのぞかせている。
そのとたん、銃撃は止んだ。優真を狙った車は、勢い良く発進すると、あっという間に走り去って行った。
「大丈夫ですか!」
呆然とその場に立ち尽くす優真の元へ、城が走り寄って来る。
「とにかく、中へ」
うながされ、強引に車内へ押し込まれる。コーヒー粉は狙撃手の車に轢かれて、無残に道路に散らばっていた。
「立花さん、ご無事で?」
運転席の舎弟も、心配そうに尋ねる。額に大きな傷があるので、名前には記憶があった。確か、マサという。
「はい……。すみません、ご迷惑をおかけして。休日出勤ついでに、つい足を伸ばしちゃって」
嘘をついた手前、ばつが悪い。早口で弁明すると、城は深刻な表情を浮かべた。
「まー、息抜きしたいのもわかりますけどね。ずっと閉じこもってましたし……。でも、やっぱり危険です。ここにはたまたま通りかかったんすけど、助けられて良かったです……。取りあえず、兄貴には報告しときますね」
はい、と優真は仕方なく頷いた。
「さっきのって、東郷組でしょうか?」
「確実っすね」
城は即答した。
「で、でもどうして僕が……?」
山下を追い出したからだろうか。不正受給者に辞退させたからだろうか。それとも、氷室の愛人だからか。原因はいくつも思い当たるが、殺されるほどのことなのだろうか。
「めちゃくちゃ言いにくいんすけどね……」
城は一瞬ためらってから、話し始めた。
「実は今、厄介なことになってるんす。ほら、今立花さんの職場って、生活保護不正受給の奴らを取り締まる流れになってるっしょ? あれで東郷組が、怒り狂ってね。奴らって、それが資金源だったから」
「……やっぱり、それで僕に怨みを?」
「問題は、それだけじゃないんす」
城は、いつになく真剣な表情だった。
「東郷組は、疑ってるんすよ。兄貴が、自分のイロである立花さんを利用して社会福祉事務所を乗っ取り、自分たちのシノギを横取りするんじゃないかと」
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