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第7話

 その後優真は、城と共に真っ直ぐ氷室の部屋へ戻った。コーヒー粉のことは気になったが、さすがにあれ以上外をうろつくのは恐ろしかったのだ。一人リビングに入ると、優真はストンとソファに腰を下ろした。 (まあ、仕方ない、か……)  今の氷室にとって最優先事項は、東郷組の征伐である。そのために桐生会の協力を得るには、条件をのむ以外に無かったのだろう。そもそも自分は、あれこれ文句を言える立場ではない。氷室は月城組の組長という立場で、四十二歳なのだ。優真とは手を切って、女性と結婚する方がいいに決まっている。迷うまでもないことだ。 (……そうだ。そういうことなら) 優真は思った。いずれ別れるなら、早く氷室の元を去った方がいいのではないか。自分の存在が無くなれば、東郷組が抱くあらぬ誤解は解ける。そうすればきっと、争いも早く決着し、商店街は平和を取り戻せるだろう……。 (あ……、でも、お金)  そうなったら、解決料三百万を払わないといけないのだろうか。優真は、眉をひそめた。分割は認めないと言われたからには、かき集めてくるしかない。  スマホを手に取り、アドレス帳をスクロールする。頼れそうな親戚や知人をピックアップするが、どうにも連絡する気になれなかった。借金の申し込みが憂鬱だからではない。少しでも、ここにいる時間を引き延ばしたかったのだ。卑怯なのはわかっている。でも、氷室の傍にいたかった。もっと抱かれたい、そして、彼のいろいろな面を知りたい……。    悶々としていたその時、リビングのドアが開いた。入って来た氷室を見て、優真はぎょっとした。彼は、かつてないほど恐ろしい形相をしていたのだ。 (外出したことを、怒って……?) 「おい、優真」 氷室の声音は、意外にも静かだった。 「正直に吐け。お前、浮気してんのか?」

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