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第8話

「――は?」  予想もしない言葉に、優真はきょとんとした。 「お前、今日、うちの奴らを騙くらかして、『ランコントル』に行ったそうじゃねえか。逢い引きでもしてたんじゃねえのか?」 「ちょっ……、違います!」  外出はともかく、なぜ『ランコントル』に行ったことまでバレているのだろう、という疑問が頭をかすめる。だが今は、氷室の怒りを静める方が先だった。必死に首を振る優真の元へ、氷室がじりじりと近寄って来る。 「なら、何で嘘をついたか言ってみろ」  バン、と壁を叩かれ、優真は縮み上がった。どう言えばいいのだろう。買ったコーヒー粉が存在しない以上、本当のことを打ち明けても、言い訳にしか聞こえない気がした。 「言えねえってか?」  氷室が、目をつり上げる。 「俺というものがありながら……」 「違……、浮気なんてしてません!」 「どうだかな」  氷室が、冷笑を浮かべる。 「お前、俺と最初に会った時も、他の男と待ち合わせだったよな? 前の男とより戻そうってんじゃねえのか? いい度胸だな。そんな真似をして、ただで済むと思ったか?」  優真は、カッとなった。 (ひどすぎる……!)  嘘をついたことで、信用を無くしたのは仕方ない。でも、そんな風に疑うなんて、あんまりではないか。 (自分だって、結婚の予定を隠してるくせに……!)

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