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第2話

 車に乗り込む頃には、優真はすでに決意していた。可能であれば、今日早速消費者金融へ行って、金を借りるのだ。どうせ向こうも結婚のことを打ち明けるつもりのようだし、金を払って別れればいい。許されるのであれば、今日中にあの部屋を出よう。 (一刻も早く、彼のことを忘れないと。そうしないと、辛すぎる……)  ぎゅっと唇を噛みしめると、優真は鞄を開けた。貴重品はそろっているから、すぐに出て行ける。 (部屋に残ってるのは、全て徹司さんに買ってもらったものだから、置いて行けばいいし……、ん?)  鞄の奥を探っていたその時、優真は手に違和感を覚えた。何かと思えば、ドリップコーヒーだった。『ランコントル』の店主がおまけで持たせてくれたものだ。狙撃やら氷室の結婚話やらショッキングなことが多すぎて、すっかり忘れていたが。  優真は、何だか切なくなった。この存在を昨日思い出していれば、『ランコントル』へ行った理由もきちんと説明できたのに。そうすれば、あらぬ疑いをかけられることも無かった。 (……そうだ、『ランコントル』といえば)  優真は、運転席のマサに尋ねてみた。 「あの、昨日は助けてくれてありがとうございました。ところで、僕が『ランコントル』に入るの、見てたんですか?」  マサは、やや口ごもった。 「あー、はい、まあ……。たまたまあの商店街ぶらついてたら、立花さんが店に入るのをお見かけしたもんで」 「……でも城さんは、僕が狙撃されてるところへ車で通りかかったって仰ってましたよね?」  何だか妙だな、と優真は思った。『ランコントル』の店主とは、しばらく話し込んだ。喫茶店入店から狙撃までは、大分タイムラグがある。それに、『わたあめ通り商店街』は車の進入禁止だ。『ランコントル』に入るのを見かけたのであれば、その時点では徒歩だったことになるが……。

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