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第3話
「あ、そうっす! 俺と城の兄貴が車で走ってたら、たまたま立花さんを見かけて……。『ランコントル』に入るのを見たのは、別の奴っす。すんません、紛らわしい言い方で」
マサは、早口でまくし立てている。優真は、眉をひそめた。
「……念のため、確認したいんですけど。徹司さんに報告したのは、僕が嘘をついて外出したことと、『ランコントル』へ行ったことだけじゃないですよね? 狙撃されたことも、ちゃんと報告してくれたんですよね?」
ミラー越しに、マサを見すえる。すると彼は、目をそらした。
「いや……、俺みたいな下っ端は、直接社長と口を聞くとかないすよ。社長への報告は、城さんの役割っす」
今ひとつ腑に落ちない。だが城なら、全て正確に報告するだろう。何せ、あれだけ氷室とは信頼関係があるのだから。
(となると、やっぱり徹司さんは心配してくれなかったってこと?)
再びよぎる憂鬱な思いを、優真はどうにか振り払った。いずれにせよ、氷室とは別れるのだ。今さら、どうでもいいではないか。
「『ランコントル』へはね、徹司さん用のコーヒーを買いに行ったんですよ」
優真は、ぽつりと言った。そうなんですか、と言いたげにマサが目を見張る。
「東郷組とのトラブルが長引いて、大変でしょう? 何とかして、労ってあげたくて。でもコーヒー粉は、車に轢かれてダメになっちゃったんですけどね」
「……」
「……そうだ、マサさん。これ、徹司さんに渡しておいてもらえますか? 彼の好きな種類だそうです」
彼に託そう、と優真は思った。結婚話に解決料支払いと、今夜はやることが山積みだ。下手したらドサクサで、また忘れてしまいかねない。ドリップコーヒーを突き出すと、マサは快く了承した。
「……へえ。承知っす。確かに」
そう言って彼は、大切そうに袋を握りしめたのだった。
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