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EX 囚われた柚希
side涼一
いつも通りゲームに潜っていたある日、予想外の事が起こってしまった。
「そろそろログアウトしないとね。」
リシェの声掛けで随分長い時間が経過している事に気付いた。
柚希の装備を外して抱き締め、部屋に運ぶのがルーティーンの為、いつも俺が先にログアウトしている。
今日も同じくだった。
「柚希?」
柚希がいつまでもログアウトしないところで異変に気付いた。
「どうした?」
同じくログアウトしたリシェールが俺の動揺に気付き、不安そうに柚希に目を遣る。
「っ…!」
俺はもう一度ログインして柚希の気配を探るが、全く引っ掛からない。
同じくログインし直したリシェールに事情を話し、柚希の居場所を確認して貰ったが、リシェールにすらわからなかった。
現実世界で柚希を病院に運び調べて貰うが原因不明。
うちに戻り、何から手を付けるべきか必死に整理する。
「一先ず、私が柚希の身体に入る。涼一は私の身体をルキウスに運んで保存して欲しい。」
そうだ、柚希の身体を放っておくと死んでしまう可能性がある。
現実世界の柚希の身体には保存の魔法を掛ける事は出来ない。
「そんな事出来るのか?」
「やってみる。もし柚希の意識だけが他の世界に囚われたのだとしたら、柚希を助けるにはこれしか方法は無いだろう。」
リシェールはすぐにログインすると、ログアウト時に柚希の身体に難なく入った。
「どうにか出来たようだ。という事はやはり、柚希の魂が無い。」
「…それに、もし囚えた奴が知っててやってるとしたら、柚希を殺す事を厭わない可能性が高いな。」
青くなるリシェール。
俺はもう一度ログインして、リシェールの身体をルキウスに運び、寝室のベッドに寝かせると、保存の魔法を掛けた。
すぐに現実世界に戻る。
「リシェールは部屋に居てくれ。柚希の身体で出歩くのは危険だからな。」
「ああ、この身体では護身術も使いこなせないだろうしな。」
リシェールを残すと俺はロイラブ の会社に出向き、事情を話してプログラムを弄らせて貰う。
柚希が行った先、連れ去ったやつ、目的、手段。
どこから手を付けるか、焦りもあって集中力が少し散漫になって居るのかもしれない。
暫くプログラムを眺めながら自分が出来る手を考える。
柚希を別の場所に移動させた手段は、柚希がログアウト出来なかった事から、その瞬間に別な場所に繋げて柚希を違う場所に誘い込んだ。
痕跡を辿ろうとしたが綺麗に消されている。
『消した』という事は、仕掛けられたのは間違い無いという事がわかった。
後は、消された痕跡を回復させて再度繋いでやれはいいのだが、調べると完全に消されていて辿るのはほぼ無理な状態にされていた。
後は柚希の関係者でコンピューター知識のある人物が居ないか、片っ端から連絡を取り捲るが該当者は見つけられなかった。
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side:柚希
ログアウトした筈なのに周囲がどう見てもファンタジーなゲームの中で。
しかも見た事が無い場所だった。
涼一さんもリシェールも見当たらない。
探知しようとして魔法が使えない事に気付く。
しかも、僕の姿がリシェではなく柚希だった。
「ど、どういう事?」
景色はファンタジーなのに姿は柚希。
パニックになって周囲を見回すけどどうしたらいいのか全くわからない。
もう一度ログアウトしようとして、ログアウトどころかメニューすら開かない事を知る。
取り敢えずその場にしゃがみこんだ。
時間が解決してくれるかもしれない。
落ち着いてよく見たら服装が現代の物だった。
つまり僕は完全に現代の僕として、知らないファンタジー世界に居る。
だから魔法は使えない。
何かをしないと帰れないなら動かなきゃいけないけど、生身で動き回るとか怖い。
ここがゲームなら死ねばログアウト出来るのかな?
試すにはリスクが高いよね。
小一時間ぐらいこの場でじっとしていたけど何も起こらないので、いよいよ歩き回るしか無いと立ち上がる。
「柚希、見つけた!」
いきなり誰かに抱き締められる。
「だっ、誰…っ!?」
その顔に見覚えがあった。
「川上…先輩?」
髪の色は違うけど、ルックスが間違いなく彼のものだった。
「一年振り、柚希。」
「…お久し振りです。」
思わず睨んでしまう。
この状況に知り合いの姿、間違いなくこの状態にしたのはこの人だって、僕にだってわかる。
「俺はやっぱり柚希の事が忘れられなかったよ。」
この川上圭吾先輩は中学の時同じ部活の一年先輩で、先輩が卒業する時に告白された。
まだ涼一さんに逢う前だったけど、そういう感情を抱けなかったので断った。
こうして会うのはその時以来なのに…。
「どうして今更こんな事を?」
「柚希の事が忘れられない間、どうしたら柚希を手に入れられるか考えていたよ。そうして思いついたんだ、『二人だけの場所に永遠に閉じ込めてしまえばいい』って。オン友に協力して貰って、このゲームの世界に柚希の意識だけを閉じ込めて…。そうしたらいずれ現実の柚希の身体は死んでしまうけど、俺もここからログアウトしないから、俺の身体も死んでしまう。……それでずっと一緒に居られる。柚希は俺以外の誰も見る事が無く。そうしたらさすがに柚希だって俺を好きになるしか無いだろう?」
笑顔で説明する内容もだけど、その様子に恐怖を感じた。
僕は全力で先輩を突き飛ばして逃げる。
「あっ!」
タックルを喰らって倒れてしまう。
そしてすぐにのし掛かられてしまった。
「相変わらず運動が苦手なんだね。拘束しなくてもすぐに追いつけた。」
懐かしむように口にする先輩。
「俺を見て柚希。」
キスしようと顔が近付いたので、必死に横を向く。
「柚希が受け入れてくれないと、夢と同じ事をしてしまいそうだよ。夢の柚希も受け入れてくれなかったから……壊しちゃったんだ、心を。壊れた柚希は何度でも俺を受け入れてくれて、可愛かった。」
何で平然と言えるのか理解出来ない。
震えながら、語る先輩を見ているしかなかった。
「出来ればそんな事をしたく無いから…俺の言う事を聞いて、柚希。」
そうだ、どうせこの身体はゲームデータだから、汚されたって現実の僕じゃ無い。
目を瞑って我慢してれば……。
そう必死に自分に言い聞かせる。
僕は強く目を閉じる。
……駄目だ、ゲームデータだって僕を模している。
割り切れるわけが無い。
感じる感覚は僕のものだし、後でこのことを思い出してしまうだろう。
「涼一さん…っ!」
名前を呟き心から助けを求めた。
その時、上に乗っていた川上先輩が横に吹っ飛んだ。
『黒い魔力弾』によって。
「柚希っ!」
「涼一さんっ!」
すぐに抱き起こしてくれた涼一さんに、僕は泣きながら抱き付いた。
「もう大丈夫だ。泣かなくていい。」
涙を吸いながら僕の背を撫でて落ち着かせてくれる。
「くそっ…柚希を返せ!その柚希は俺の物だ!」
「柚希は全て俺の物だ。それに勝手に柚希のデータを取り込んだり、肖像権を侵害しているな。」
川上先輩が魔法を発動したけど、あっさり涼一さんの魔力に負ける。
「今このゲームとロイラブを繋いでいる。このゲームはMAXLv99だろうが、こっちはMAX1000までアップデートされている。火力がダンチだから、相手にならないからな、無駄だ。」
涼一さんが川上先輩を挑発する。
そうは見えないけど怒ってるんだと思う。
「そうそう、この世界に留まりたいんだろうから、留まらせてやろう。」
涼一さんが川上先輩を球状の闇魔法で閉じ込める。
何か騒いでるけど声も閉じ込められているようで聞こえないけど、口の動き的に「出せ!」って言ってるみたい。
「…一人で、死ね。」
こちらからの声は聞こえるようで、涼一さんの低い呟きに、先輩の顔が青くなった。
アレク様に転移して貰うと、ロイラブに戻った瞬間、僕の姿は金髪のリシェの姿に無事に戻った。
一応メニューを開いたり魔法を使ったりしてみて異変が無い事を確認した。
「アレク様、有難うございます。」
「いや、あんな抜け道にやられると思わなかった。美月さんが結婚退職してから担当が変わったせいもあるだろうが、最近は俺はデバッグの手伝いをしてなかったからな…。」
「んと、姉さんとアレク様の手を離れてたから、抜け道が出来た?」
「まあ、そんな感じだ。」
「で、どうやって僕を見つけたんですか?」
「ロイラブのゲーム会社の人に頼んで柚希を探す協力をしてもらった。俺はこっちにログインして連絡を待った。さっきのゲームには行き着いたが、最後は…柚希が呼んでくれたからな。」
「届くと思わなかったけど、きっと助けてくれるってただ信じて祈った瞬間だったから…本当にびっくりして……嬉しかったです。」
ぎゅっと強く抱き付く。
アレク様も抱き締めてくれる。
暫くそうしていた。
「一度ログアウトしよう。柚希の身体はリシェールが入ってくれてるから無事だ。」
「良かった…放っておいたら身体が死ぬって言われてどうしようかと…。」
リシェールも心配してるよね。
お礼も言わないと。
「柚希のログアウトの準備をしてくるから、結界を張って待っててくれるか?本当は助け出したばかりで一人にはしたくないんだが…。」
「はい、大丈夫です。」
アレク様に言われた通りにすぐに結界を張ると、心配そうな顔をするアレク様がログアウトするのを見送った。
「川上先輩…あそこで本当に死んじゃうのかな…?」
それほど酷い事はされなかったせいかもしれないけど、やはり知り合いが僕が原因で死んでしまうと思うと…。
「何だか胃が痛くなって来た…。」
「安心しろ。あいつにやったのは脅しで、24時間閉じ込めただけだ。」
「あ、お帰りなさい。そうだったんですね。」
ちょっとだけ安心してしまう。
「今回の手口は二度と使えないし、柚希のデータも勝手に再現も出来なくした。」
「有難うごさいます。やっぱり僕はアレク様が居ないと駄目ですね。」
「今後二度とリシェを危険な目に合わせないように、更なる注意を払わないとと気を引き締める機会になった。」
「頼りにしてます。」
笑顔で返事をするとお礼代わりにちゅっと音を立ててキスをしてから、しっかり抱き付いてログアウトした。
現実世界に戻ってすぐに激しく抱かれてしまった。
「可愛いキスで誘われた。」
と言われて…。
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舞台裏
「柚希君がうちのゲームで行方不明なんて!芹澤部長に知られたら…下手すれば会社が潰される!」
「みんな、今日の業務は緊急休止して、鷹宮君のバックアップを全力で行うんだ!」
総務から営業、社長までも、会社が一丸となってあらゆるネットワークを使い、一つのゲームに行き着いたのだった。
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