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第9話
制服に着替えると、オレは繋先輩と待ち合わせをしている学校の近くにあるショッピングセンターに向かおうとしていた。
先輩とはこの中にある本屋で待ち合わせして、食材がない時は中にあるスーパーで買い物もして帰る。
一緒にいるところを何度か学校の生徒に目撃されてるけど、その時は夕飯を家族みんなで食べる事になっているから、という話をしてやり過ごしていた。
繋先輩は年明けすぐにかるたの大会があり、今日はオレの方が遅かったけど最近はオレより部活が終わるのが遅い事もある。
かるたをやってる時の先輩を前に一度だけ見たけど、オレの知らない……ものすごく怖い顔……『鬼』みたいな顔して物凄い速さで札を取っていた。
『あ、雅美くん、お疲れ様。ごめんね、かるたに集中してて来ていたの気づかなかったよ』
終わった時に見せてくれた、いつもの優しい笑顔にめちゃくちゃギャップを感じてしまって、その日の夜はしばらく眠れないくらいだった。
繋先輩をこれ以上待たせる訳にはいかないと小走りで体育館から玄関までの廊下を進んでいると、どこからか声が聞こえた。
「!?」
教材室という先生方しか入れない場所に、妖怪の姿をしたチロ先輩と真っ黒い服を着ている背の高い人がいるのが見えた。
頭からフードを被ったその人の顔は分からなかったけど、焦っているような印象を受けた。
「Wait!今はまだ早いデス」
「早くないよぉ、ボク、もう少ししたらきっとお腹出てきちゃうよぉ。だいたい、キミが結婚しようって言ったんじゃない。早く繋に報告させてよ」
「but……」
えっ。
お腹出てきちゃうって。
結婚って。
チロ先輩、まさか……妊娠してる……のか……?
オレが驚いてその場に立ち尽くしていると、教室のドアが開いた。
「!!!」
「あ、雅美くん!今部活の帰り?これから繋と帰るの?ちょうど良かった!!」
そう言って笑顔で飛びついてくるチロ先輩。
「……キミは……」
フードの奴がオレを見る。
どこかで見覚えのある緑色の目は、かなり動揺しているように見えた。
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