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「ソラと名乗る」

  「お前、名前は?」 「……水森蒼空」 「ミズモリソラ? それ、全部名前か?」  勇者の繰り返すイントネーションが、おかしい。  繋げないで……。 「水森が名字で、蒼空が名前……」 「みょうじ?」  騎士が不思議そうにそう言った。  …………ないよね。名字。  分かってたのに、言っちゃった……。  全部デフォルトのままでゲームしたから、勇者はルカ。魔法使いはリア。剣士はゴウ。騎士はキース。  皆カタカナで、短い……。  蒼空、じゃないな。  もう、ここでは、「ソラ」でいこう……。  ほんと、リアルな変な夢……。自己紹介するって。 「……名前、ソラです」 「ソラ、だな。 お前、 何であそこに落ちてきた?」 「――――……全然分かんない」 「自分の意志じゃないって事? あ、あたしはリアね? よろしく、ソラ」  魔法使いのリアの言葉に頷く。 「こことは違う世界で生きてて――――…… 急に、さっきの所に、落ちた感じで……」 「ふーん?? オレは、ゴウ、な。剣士だ。 こことは違う世界って?」 「日本っていう国の、東京っていう町に居たんだけど……白い光に包まれて……」  ゴウの言葉にそう返したら、今度は騎士のキースが、頷いた。 「確かにソラが出てきた時、白い光が急に……見た事がない位、まぶしく光ったよね……」  んー、と首を傾げながら。 「あ、オレはキース。戦いは剣を使うけど――――……白魔法も使うよ」  そう言ったキースが、ふと、オレの手首に触れて、少し持ち上げた。  さっき落ちた時に血が出た肘に、何かの呪文。  ふんわりした光に包まれたと思ったら。 「うわ。――――……治った??」  すごいすごい。  ゲームでは当たり前のように、魔法使ってたけど。  実際使われると、すごすぎる。 「何でこれ治るの? 不思議すぎなんだけど! ていうか、治してくれて、ありがと!」  マジで、すっごい、不思議。肘を何度も触ってしまう。  すごいなー、日本に居たら、神様として崇められそうな能力だなー。  はて、能力なの? 魔法って。  何だかは分かんないけど、すごい。 「どういたしまして」  くす、と優しく笑われる。やっぱりキースは、すごい優しくてカッコいい騎士だなーと改めて思っていると。  それまで黙って酒を飲んでた勇者が、不意にオレの顎を掴んだ。 「――――……なんか、普通に話してるけど。お前、ほんとに何?」 「――――……」  やっぱ、この人が一番、ていうか、この人だけが、怖い。 「お前のせいで、オレ、今日魔王、倒せなかったんだよ、分かってるか?」 「……」  オレのせい、という所にひっかかるけど、一応、頷く。  まあ確かに。ど真ん中に落ちたオレに気を取られなかったら、多分、倒せてた、はずとは思うけど……。 「すげえ、今、鬱憤たまってる訳」 「……」  まあ。それは……うん。分かる。  オレだって。  あそこまで追い詰めた魔王に逃げられて、ちょっと悔しい。  ルカを、ここまで超頑張らせてきたから、ほんと、不憫だと思う。  …………でも、ちょっと待って……。  こんな訳の分からない世界に入ってしまった、オレの方が不憫じゃない……?  帰れたら、いくらでも、やりなおして、ゲームクリアするから、許して。    そう言いたいけど。  ……オレがやってたゲームのキャラクターなんだよ、と、この人たちに言うのは、躊躇われる。  多分、ゲームなんて知らないだろうし。  自分たちが作り物、なんていう、そんな話――――…… どうしたって信じないよね……。  なんか、RPG自体がもう、アニメっぽくなくて、もう、リアルな実写みたいな画像だったから、全然違和感なかったけど……。  この人達、今オレの目の前では、完全に普通の人間みたいに、生きてる、もんな……。  夢というには、あまりにリアル。  …………ていうか、お前のせいで倒せなかったって……  オレのせいなのかー……。えー……そうなのかなー……。  ていうか、顎掴むとか、マジ、この人、何なの。  離してほしいんだけど……。

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