19 / 290
「良い奴じゃなかった」
「ほら」
また口に入って来た甘い味に、ついつい笑ってしまう。
だって、美味しい。
「とりあえず、今持ってきた中では、それが一番好きみたいだな」
そんな風に言って、ルカが笑う。
笑んだまま、また皮をむいてくれてるので、じっと待ってる隙に、ルカを観察。
黒い髪。意志の強そうな瞳。整ってて、凛々しくて、文句なしのイケメン。
動作は……綺麗。さすが王子様なんだろうなあと思うけど。
ただなんか、やっぱり城の中で何不自由なく育った「王子様」てよりは、色々大変な中ここまで成長してきた「王子様」だからなのか。ちょっと? いやかなり? 荒々しいとこや、性格ひねてるとこがある気がするけど。でもその分、逞しいし、頼りになる。……オレ、めいっぱいイベントさせたから、めーーーっちゃ成長してると思うし。うん。
背も高いし、逞しくて。声は、あの、超人気の声優のだし。
まあ……全体として、超良い男、なのだろうけど。
昨日の出来事のせいで、それを素直に認められないオレが居る。
ただ。こんな風に穏やかだと、昨日の事、夢だったみたいな気がしてくるけど。
「ほら」
ぱく、と実を食べさせられて、もぐもぐ食べていると。
くっと笑いながら。
「もう飯、いいか?」
そう聞いてきた。頷くと、コップを手に取ったルカが、オレにそれを渡してきた。
「このジュース、飲んでみな」
「うん」
素直に頷いて、こく、と飲む。
オレンジジュースみたいな見た目なので、完全にオレンジジュースの味を想像しながら飲んだ。
そしたら。
「……っにっ、が……っ!!」
見た目からは想像もできない位、苦い。
「何、これ……っ」
「リアからの差し入れ。栄養たっぷりのジュースだと」
「……っ」
リア……。
そうだ、あの人、変な黒魔法使う人だった。
これが変な黒魔法で出来上がったものかは分からないけれど、
どっちにしても、まずすぎて、絶対無理。
「つか、飲めよ、体に良いって、言ってたから」
「…もう、いらな」
「リアの好意、無下にすんのか?」
低い声で言われて。
……だって、これ、飲んだら、絶対、体悪くしそうな味なんだもん。
これ以上飲んだら、食べたもの、吐いちゃうかもだよっっ。
そう思って、ジュース片手に、許してもらえないだろうかと少しの間ルカを見つめるけど、リアの好意、という言葉に諦めた。はあ、と息を付いて。
もう、匂いがしないように、一気に飲んじゃおう。
心を決めて、ぐい、とあおって、喉に流し込んだ。
完全に、喉の奥に流し込むように飲み込んだって言うのに、口の中に残った少しの味の、何とも言えない苦さに、むせる。
「――――……良く飲んだな」
クッと笑い出す、ルカ。
何言ってんだよ、飲めって言ったじゃんか!
「だっ、て、好意が、とか……っ」
あまりに強烈な味にもう涙目で、笑ってるルカを睨むと。
ルカは、オレの手からコップを取って、トレイにのせ、ベット脇のテーブルに置いた。
「これな、朝飯ん時にリアが出して、オレら3人、一口でやめたやつ」
「……っ」
「すげえな、お前。よくこんなもん、飲めたな」
「…………っっっ」
……ひどすぎる。
…………全っっ然、良い奴じゃなかった。
ゲホゲホ。
むせてると。
不意に、すぐ近くにルカの気配を感じて。
咄嗟に顔を上げようとしたら、何だかよく分からないままに、いきなり抱き込まれて。
「なに……ん、ン……っ?」
唇を奪われて。遠慮も無く、入り込んできた舌に、口の中を舐められた。
ともだちにシェアしよう!