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「一瞬で」

   え、何。  思って、振り仰いだ瞬間。  ものすごくでっかくて黒い化け物の足に掴まれてる事を知った。  あ、これが――――……探してた魔物、か。  飛べるのか……。  ルカ達が、驚いたような顔で、こっちを見上げてるのが、分かる。  すぐに、魔物が、方向を変えたから、ルカ達が視界から消えてしまう。 「――――……っっ」    本当に怖い時って。  声も出ないんだ……。  思った瞬間、だった。  何だかすごい音と衝撃が、伝わって。  もう何だか分からず目をつむって。 「人のモンに、勝手に触ってんじゃねえよ」  ものすごく怒ってる、みたいな、低い声が聞こえて。  体に触れてるのが、固いものじゃなくなって。  慣れた感触に、抱かれた気がしたけど、怖くて目も開けられず。  音と衝撃がやんでから、おそるおそる、目を開けたら。  オレは、ルカに抱えられたまま、空中からふわりと、地面に着地、したところだった。  その目の前に、さっきまで、オレを掴んだ、魔物の足が、どしゃ、と落ちてきて。 「う、わっ……」  驚いてる間もなく、黒いデカい魔物は、物凄い声を上げながら、そのまま崖の下に、落ちて行く、ところで。 「……え」  何。これ。足。でか。怖。 ていうか、足だけ、だし。 こわ。  あいつ、今、落ちてった……?  この数秒の間に起きた事があんまりすぎて、オレは、ぺたん、と腰を抜かしたような感じで、地面にへたりこんだ。 「ん?」  ルカが、剣の血を振り落として、布みたいなので拭きながら、オレを見た。 「どこか痛めたか?」  剣をしまってから、へたり込んでるオレの前にしゃがんで、真正面から見つめてくる。 「…………」  首を横に振る。ドコも、痛くない。  ただ、事態に、ついていけてないだけ。 「……ソラに手出すとか、馬鹿だなあいつ」 「一番弱そうだったから捕らえたんだろうけどねー。一番触っちゃいけないとこだよねー。馬鹿だわ」 「――――……ルカだけで一瞬だったね。オレ達、何もする事なかったし。拍子抜けすぎ」  ゴウとリアと、キースがそんな風に言って、後ろで笑ってる。 「痛いとこ、ねえ?」  ルカの言葉に、こくこく、頷いて。 「……たお、したの……?」 「ああ。 なんか……生意気に結界みてえの張ってたけど。それごとぶった切った」 「――――……」  イベント的には……結構倒すのに苦労するやつじゃ、ないのかな。  一瞬、て。 「……立てねえの?」  ぷ、と笑って、ルカが、オレの頬に触れる。 「何か……色々――――……強烈すぎて」  そこに落ちてる、デカい足も、怖すぎて。  視界に入ってくる足にすら、怯えていると。  次の瞬間。リアが、呪文を唱えたと思ったら、その足が一瞬で、燃え尽きた、というか。炎は一瞬しか見えなかったけど、灰みたいになった。 「――――……」  軍隊連れてくより、4人の方が強い、て。  …………分かった気がする。 「ソラ人質にさせれば、ルカ1人で魔王も倒せちゃうんじゃないの」  リアが面白そうに笑ってるけど。   ルカはそれには答えずに、オレの手を引いた。 「立てねえの、お前」  オレを立たせようとしたルカが、足に力が入らないオレに、クッと笑った。 「っしょうが、ないじゃん。 もう、何もかも、全部、ありえないような、ことなんだよっ……」  掴まれたのも飛んだのも、あんな足が目の前に落ちてくるのも、落ちてく前の魔物の声すら、まだ怖い。 「別に悪いとは言ってねーし」  笑いながら、ルカが、目の前に背中を見せてしゃがんだ。 「立てるまでのってろ」 「――――……え」 「めんどくせえな、早くしろよ」 「……あ、うん」  ルカに手をかけると、すぐ立ち上がったルカに、軽々おんぶされてしまった。 「……お前、震えてる。――――…… ひっついてろよ」 「――――……っ……」  3人に聞こえないように、囁いてくれたルカに。  ……何を思ってそうしてるんだか分からないけど。  なんか、胸が、ドキ、とする。 「……あり、がと」 「ん?」 「……助けてくれて」  そう言ったら。  ルカは一瞬黙って。それからクッと笑った。 「無理やり連れてこられて巻き込まれて、お前、被害者だと思うけどな」 「……それでも。 ありがと」  言うと。  ルカは、ぷ、と笑って。 「ん」  と頷いた。

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