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「アラン」
「……ん、ん……」
胸が締め付けられるって。これは一体何なんだろうと。
目を少し開けると。
凛々しいルカの、瞳を伏せた顔面のアップ。
何でオレは、ルカと、こんな、キス、何度も繰り返してるんだろ。
何でルカは、オレに、こんなに、キス、ばっかり……。
「――――……」
見上げたルカの向こうに、ミウがふわふわ浮いてるのが見える。
そういえば、ミウと初めて会ったのも、こんな風に、木のとこで、ルカと、キス……だけじゃなかった、あん時は、全部してたっけ。
……ていうか、外でとかありえないし……っ。
何だか思い出して、急にまた恥ずかしくなってきた時、だった。
「――――……??」
あれ? なんか。ミウの飛び方が……?
何かに、向かってる、みたいな。 ただいつもみたいにフワフワしてるだけじゃなくて。
何かの方を、向いてるというか、見てる、というか。
――――……何か、木の上に、居る……?
「……ん、んっ!」
「――――……?」
「ん、か……るか、あの――――……」
「も少し」
「……っン……っ」
じゃ、なくて。
ちょっと……!!
「……る、か、あの」
「んだよ、もう少し」
囁きながら、またキスしようとしてくるけれど。
「待、って、あの、上……」
「んだよ?」
とっても不機嫌そうに唇を外して。
ルカが、上を見て。
ミウの向きと飛び方に、ルカも、ちょっと疑問に思ったらしく。
「ミウ、なんか居んのか?」
ルカは、オレの事は離さず抱いたまま、ミウにそう言った。
「みゃー」
ミウが、大きな枝の根本の所にふわふわーと近づいていく。
なんか。もう絶対、あそこに誰か居る。
「そこに誰かいんのか?」
ルカの声に。
ちょうどミウが居たあたりの、太い枝の所から。
ふ、と誰かが顔を出した。
ルカが呆れたように。
「何してんだ、そんなとこで」
「何してんだって――――…… ここ、オレの昼寝場所」
木の上で昼寝って……。
変な人。
ちょうど、木の上に太陽があるせいで、逆光になって、完全に影になってて、顔は見えない。
声は若そうな、男の人だってことだけは分かるけど。
「下でコトが始まりそうだったから、終わるまで寝てようかと思っただけなんだけど?」
クックッと笑って、そいつが言う。
――――……っっ 聞かれてたってこと? 見られてた??
うわ、ものすごい、恥ずかしすぎるんだけど……。
なのに、ルカは全く平気な顔して、「ふざけんな」とか言ってる。
……ふざけんなはむしろ、外でこんな風にしてた、オレ達だけどね。ていうか、ルカだと思うけどね。
でも、ルカも、相手も、全然気にしてない。
この世界の人達って。
……ほんとうに、そこらへん。緩い……。
外で、しかも男同士で、こんな真昼間……いや、割と朝に近い時間から、あんな事してたのに、特別な事でもないような感じの反応で。
会う人会う人、皆緩いと、オレが気にしてるのがおかしいのかなって思ってきてしまう。けど。
……違うよね? ――――……悩む……。
「なあ、これ、ミウだよな、こんな近くで見るの、珍しい」
彼はそんな事を言って。ミウは、差し出された手に近寄ってく。
ミウを撫でた後、すっと立ち上がり、枝を伝って、上手に降りてくる。最後なんて、かなり高い所から、ジャンプして降り立った。
鍛えられてそうな良い体の、長身の男。
強気な瞳が印象的だった。その瞳が、ルカを見て、あ、と面白そうに緩んだ。なんだか、人懐こいイメージに急に変わる。
「もしかしてルカ王子?」
「……何でそう思う?」
「刀についてる紋章。前に、城に行った事があって、見かけたから」
「……城に?」
「そう。船を作りに行った。あん時王子は出てて、顔は見れなかったけど」
あ。
――――……この人の、髪って。
一瞬黒っぽいけど――――…… 緑、だ。
「――――……お前、アランか?」
「え?……てか、そっちこそ、何でオレの名前?」
アランは、不思議そうな顔をして、ルカを見つめた。
「お前を探してたんだよ」
「――――……あーもしかして、海に出たい?とか?」
「話が早いな、お前」
ふ、とルカが笑う。
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