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「溶かされる?」

  「ソラ」  皆の少し後ろを歩いていたのだけれど、ルカに腕を掴まれる。   「隣に居ろよ」 「……ん」  ルカを見上げる。  どう見ても、真剣に守ってくれようとしてるんだろうな、と思うその視線に。  少し、ドキッとする。 「あいつら何が変なんだろうな」  ゴウが首を傾げてる。 「なんか――――……正気じゃないっぽい?」  リアも眉を顰めたまま、言う。 「魔物でしゃべらない奴の正気とか、もともとよく分かんないけどさ。何だろうねえ?」  皆もなんだか不可解そうで、色々話しながら歩いていたら。  少し離れたところに変に黄色い風景が広がっていて。 「黄色い花だって言ってたからあれか?」  ルカの声に皆、そちらに向けて歩き出す。  近づけば近づくほどに、花の大きさに驚く。    でっかい花! オレよりデカいじゃん、何これ! 「ソラ、離れてろ、あんまり近づかな」 「あ、うん」  ルカに腕を掴まれて、後ろに下がられる。 「……この花、生きてるか?」  ルカの、怪訝そうな、言葉。  生きてる? 「植物てより、魔物に近いのか?動きが風に揺れてるというよりは、自ら動いてるて感じか?」  ルカの言葉に皆も頷く。 「なんだろう、なんか、花の匂い……かがない方がいいかも知れない。何か、嫌な感覚が……」  リアが言って、ルカが「焼き払うか」と言った瞬間だった。     急に、横から、変な緑色のものに掴まれた。  う。わ。何??  なにこの、触手みたいなの。  皆は前を見ていて、気づいてない。  ルカ、と叫ぼうと思った瞬間。そのまま引っ張られて。  引っ張られていく一瞬で、皆が驚いたようにオレを見上げたのが分かったけど、本当に一瞬で、オレは花畑の真ん中に引き込まれて、そのうちの1つに取り込まれた。  取り込まれたというのか、引き摺り込まれたというか。とにかく、花に、食べられてしまった、みたいな。 「ソラ……!」  ルカ達の声が遠くで聞こえる。  何、これ。  うわ。甘い、匂い。  気持ち、悪い。  体、ベタベタする。  熱い。  なにこれ、オレ、溶かされて食べられるとか?  うわ。何か――――…… 最悪。  きもち、悪い……。  甘さにクラクラする。  吐息が、熱い。  なに、こ、れ。  気持ち、悪い。けど、なんか気持ちよくて。  麻痺してくる。 「……る……か」  ルカの名前を呼ぼうと思うけど、吸い込んだ息で、花の甘い匂いが脳まで侵すような。声がまともに出ない。 「ミウ!! ソラがどこか分かるか?」  ルカの、焦った声が、する。   いっぱい咲いてて、動いてたから、どれに入ったか、分かんないんだ。  正直オレですらどの花に入ったか、分かんないし。  少しして、何かの衝撃がして、花が揺れる。  瞬間。オレのすぐ近くで何かが、光った気がした。  でももう、意識が朦朧としていて何が光ったのか、分からない。  熱くて、溶けそうで。  食虫植物の、人間版とか?? 食人間植物?? なにそれ……? こわ……。  この中、出なきゃ……。  どうしよう、これ。動けない。気持ち悪い、アツイ。  体が、熱い。息が苦しい。  オレこんなとこで溶けたくない。    まだ、皆と……ルカと、居たい。  ルカ……。  瞬間、周囲が少し、明るくなって。少し熱くなって。  かと思ったら。  また何かの衝撃がして、不意に花の上の部分が、開いた。    ふわっと風が体を包んだ。  ぐい、と風に持ち上げられたみたいになって。  そのまま、体を抱き締められた。 「ソラ……!」  頬に熱い、手の感触。  ルカ……だ。 「……オレ、溶けて、ない?」 「ソラ?」   「熱い……体……とけ、てる?」 「大丈夫、溶けてはない」  そう言ったルカがオレの腕に確かめるように触れた瞬間。  電気が走ったみたいになって、びくん!と大きく震えてしまう。 「……や、さわら、ないで……」 「……ソラ?」  ルカがオレの顔を見て、眉を顰めた。  その手でオレの首筋に触れてくる。  またしても、ビクンと大きく震えて、熱がブワ、と、体を巡った。 「これって……キース、この状態、戻せるか?」  ルカがキースに言って、キースの手がオレの額に触れる。呪文が聞こえる。  ベタベタしてた花の蜜の感触は無くなって。  清めてくれたのは、分かった。  それでも、脳の真ん中が熱くて、ぼやけてて。  辛い。 「ル、カ……」  ぎゅ、と、ルカの腕に縋る。 「キース、どうだ?」 「これ、ダメだ。中まで熱くて、そっちの方はどうにもできない」  キースの声。  え.ダメなの? オレ、もうダメなの?  ショックすぎて聞きたいのだけれど、ちゃんと話せない。  熱い。 「る、か……たす、けて、あつ、い……」  震える体。崩れそうになる。  ルカが背を抱き締めて支えてくれるけど、触れられてるとこが、熱い。 「リア、もう一度炎出して」 「うん」  リアの出した炎に、ルカの風が重なって、黄色の花畑全てを取り囲んだ。  瞬間的にものすごい火が燃え上がって、すぐに消えた。  辛うじて見えたのは、燃え尽きて、灰になった花畑。  そこで、オレは、気を失った。  

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