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「お菓子作り」3

  「じゃあさ、粉をふるうものってある?」 「ふるう??」 「粉を細かくしたいんだけど……だまにならないように」 「どーいうこと?」  ……うん。そんな繊細なことはしないらしい。  だよね……。  さっきの天ぷらみたいなのは美味しかったけど。  あ。さっきの料理をこの卵で作ったんだったら、普通に美味しいクッキーになるかも。 「ジェイ、さっきの野菜の料理さ、この卵使った?」 「使ったよ?」  おお、じゃあ味はきっと、ちっちゃい卵と一緒なのかな!   ウキウキしてきた。 「なんか、大きめのお箸か、混ぜる道具とか、ある?」 「あるよ。箸」  箸か。  仕方なく、新しくジェイに借りたボールに、粉を入れて、混ぜ混ぜする。  ほんとは泡だて器の方がいいけど。箸でもできなくはない。  続けていると、粉が細かくなって、ふわふわさらさらしてきた。 「おー、なにそれ。不思議」  ジェイが、不思議そうにのぞき込んでくる。  これ……正直全部どのくらい入れればいいのか、分からない。  測るっても無駄だから……感覚だな。  耳たぶ位になるように。甘さは控えめで……。    うん、なんか、大分向こうの世界とは違うけど。  何となく、出来そう!   「ジェイ、チョコの実ある?」 「外に生えてる。取ってこようか?」 「いいの?」 「いいよ、お前はそっちやってろ」 「うん。ありがと」  ジェイが居なくなって、その間も、かたさを見ながら、材料を混ぜていく。  砂糖がなぁ。  ……どんくらい入れればいいんだろ。  んー、と悩んでると。  不意に後ろから。腰に回ってきた腕に抱き寄せられてしまった。 「わ……」 「――――……ソラ、何してんだ?」 「……ルカ」  む。さっきの言葉を思い出して、一瞬で、ムッとしていると。  ルカがくす、と笑った。 「……さっきの怒ってんのか? すり寄ってるってやつ」 「――――……怒ってる」 「……怒んなよ」  ぎゅー、と抱き締められ、首筋にちゅ、とキスされる。 「……っオレ、今作ってるから邪魔しないで」 「……ん」  くす、と笑われて。ぱ、と手を離される。  ルカは、すぐ近くの椅子に腰かけた。 「見てる」 「……ルカ、飲み比べは?」 「オレの勝ち。アランがもう負けで良いって。もー飲みたくないんだと」 「つぶれてないの?」 「つぶれてはないぞ。元気にしゃべってる」 「あ、そ……」  じゃあ結局2人、あんだけ飲んでも酔っ払ってはないのか。   「……いいとこだぞ」 「ん?」 「人懐こくて、すぐ仲良くなるとこ。特技だろお前の」 「……もーいいし」 「素直で可愛がられるし――――……ただ、オレがムカつくだけで」 「――――……?」 「オレのにしときたいから、むかつくだけ」  マジマジとルカを見つめてしまう。 「……ルカって」 「……」 「…………よくわかんないんだけど」 「――――……」 「……オレの事好きなの?」 「――――……は? 今更……」  びっくりした顔をされる。 「え、だって――――……」  まあ……嫌われてるとは思ってないけど……。  リアが、お城に戻ったら、相手がいっぱいいるしねとか、言ってたし。  今だけこんなに、執着されてるのかなと……。  何て言ったらいいのか分からなくて黙っていたその時。 「ソラ、チョコの実どん位だ? こん位で足りるか?」  ジェイが戻ってきた。 「……っと。ルカ王子」  ルカに気付いて、ぴた、と止まる。 「いい、続けろよ」    ルカはため息をついて、そう言った。 「――――……いーのか?」  ジェイがルカに視線を流しながら、オレに聞いてくる。 「うん。……良い、かな……」  多分今、ルカ、話す気なくなってるみたいだし。 「これ、皮剥く?」 「チョコの実、ちょっと混ぜてみたくて」 「どん位?」 「試しに混ぜたいだけだから、10粒くらい。刻みたいなー……」 「OK」  ジェイがチョコの実を剥き始める。 「こういう焼くお菓子ってどこで焼くの?」 「ああ……来てみな」 「うん」  部屋の端っこにある、窯みたいなのの蓋を開けて、見せてくれる。  なるほど。ピザ窯みたいな感じかー。 「ありがとう。あとさ、バターってある?」 「ああ――――……つか、ソラって、どこから来たの? 物は知ってるのにあるかないか、そんなに聞かないとわかんねえの?」 「あー……うん。そーなの」  あはは、と苦笑いしながら、バターを受け取る。  ルカが、ふ、と笑うので、む、と視線を向けると。 「……ソラ、何つくんの?」 「クッキー」 「ふーん。――――……出来たら、食わせて」 「え」 「――――……何。嫌なのかよ」  む、とするルカに、首を振る。 「ていうか……当たり前じゃん。ルカに食べさせようと思って作ってるのに」  そう言ったら、ルカ、珍しくすぐ何も答えなくて。  ふ、とため息を付かれた。  何でか、ジェイが隣で急に、ぷ、と笑う。 「何?」 「……いや、別に。もう焼き窯あっためとく」 「うん」  クスクス笑いながら、ジェイは窯の方に歩いていった。

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