172 / 286

「隣に」

「うっわー、すごい!」  ルカに連れてこられたのは、城の屋上。  他に高い建物が無いから、ものすっごく遠くまで見晴らせるし、下を見れば城下町。人がちっちゃい。 「ここ、すごいね。山の頂上にいるみたい」 「見晴らし、良いだろ」 「うん。すごい」  すごいしか、出てこない。 「お前の世界には無いのか、こういうとこ」 「んー……オレの世界の方が、高い建物がいっぱいあるんだよ。だから、こんなに空が広くないし……お城なんて、無いよ」 「城じゃない高い建物がいっぱい?」 「うん。んー……」  足元に砂がすこし積もってる。  指先で、四角いビルの絵を描いてみる。 「こういう四角いでっかい建物がいっぱい建ってる」 「ふうん……?」 「ルカがオレの世界に行ったら、目立つと思う」 「何で?」 「あんまり居ないから」  ルカを見上げると。 「どーいう意味?」  しゃがんでるオレを見下ろして、くす、と笑う。 「見た目も目立つし。こんな偉そうな人いないかな……」 「偉そうって何だよ」  ふ、と笑いながら、ルカがオレの手を引いて、立たせる。 「偉そうでしょ」 「そうか?」 「そうだよ」 「まあ……偉いからな?」 「――――……そうだね」  くす、と笑ってしまう。  ルカっぽいな。  ルカは、オレの頬に触れて、何だかちょっとムッとした。 「……なに??」 「――――……やっぱりあんま情報無かったな」 「……?」 「他の世界、聞いた事ねえから、そうかもしれないとは思ってたけど」 「ああ……うん」 「魔王が現れた時と一緒って言われても、魔王に聞けないしな」 「うん……」  ……魔王も、どこか違う世界から来たって事、なのかなあ。   ――――……オレと同じ世界から? でもなあ。オレ、あんな人、知らないし。関わりは無いもんな。もし魔王に話が聞けても、お互い飛んできたんだねあっはっは、で終わる気がする……。  ああ、でも――――……もしそうなら、夢でないって事だけは、確定するのかな。でもどっちにしても……。 「――――……まあ今んとこ大した情報はねえけど」 「……っぅわ」  ひょい、と抱き上げられて。  ちょっとびっくりしたまま。面白そうに笑ってるルカを見下ろす。 「何にしても、側に居させるし、居なくなったら探すから、覚えとけよ」 「――――……うん。わかった」 「ソラ」  とん、と地面に降ろされて。  今度は、ルカを見上げると。まっすぐに、真剣に、見つめられる。 「どこから何で連れてこられたか分かんねえけど」 「――――……」 「……今お前、居なくなったら……」 「――――……」 「……居なくなったら――――……」 「……居なく、なったら?」  ドキドキ。  居なくなったら、何だろう。 「……居なくなっても、まあ死にはしねえか。 んー。泣く……泣かねえかな。……何だろうな」 「……っ」  何だそれ、からかってんの??  マジメにドキドキして聞いてたのにー! 「あー待て待て、怒んな」  くー離せー!  ぐいと腕を引かれて、すぽ、と抱き締められた。 「――――……死なねえし、泣きはしねえけど」 「…………っ」  まだ言うのっ もう、何なんだっ!  居なくなったら死んじゃうとか、居なくなったら泣いちゃうとか、嘘でも言っといてくれたらいいのに。……って、絶対ルカはそんなタイプじゃないの、分かってるけどっ……! 「……ソラを見つけるまで、何があっても、どんな手ぇ使っても、探す」 「――――……」 「絶対、探す」 「……見つからなかったら?」 「オレが死ぬまで、ずっと探すから、ソラも絶対ぇ忘れんなよ」 「――――……」 「返事は?」    ムカついてたのの反転。  なんか泣きそうになって。  声が、出なくて。  黙ったまま、頷いたら。  ふ、と笑ったルカが。 「オレ、お前が隣に居ねえの、無理だから」  ……無理?  ――――……オレが、隣に居ないのは、無理? 「――――……も、いい、分かった」  ――――……なんか、ほんとに、泣きそう。  ふ、と息をついてから。  ルカの胸元の服、掴んで、少し引いて。  黙ったまま。  キス、した。  

ともだちにシェアしよう!