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「のんき」

   しばらくキスされて、体をルカに預けていたら。  頬に触れられたまま、そっとキスを外されて、見下ろされる。 「――――……気持ちいい?」 「……ん」  もうなんか。逆らうのも馬鹿らしくて。素直に頷くと、ふ、とルカが笑う。 「――――……部屋戻ろうぜ」  ひょい、と抱き上げられて。向かい合わせみたいな感じで、腕に乗せられちゃう感じ……。なぜこんなに軽々と……と、何回されても、驚くけど。 「暴れんなよ? どーせ、今歩くの大変だろ?」 「……ルカのせいじゃんか」 「だから、抱っこしてやってんだろ」 「――――……」  抱っこって。  ……もういいや。反応すると疲れるから。 「なあ、ソラ」 「……? うん」 「お前の世界の話、してみろよ」 「んー? オレの世界……何が聞きたいの?」  急に言われてもどこから話せばいいのか、よく分からない。 「何からでも良いぞ」 「んー……と……」  なんだろう。 「……魔物は、居ない」 「ああ」 「魔王も居ないし……人、襲ってくるでっかい動物は、人が住んでる所にはあんまり居ないなあ。吸い込まれる変な花も居ないし」 「ああ」  ルカがゆっくり歩きながら。オレを見つめる。 「んーと……歩きじゃいけない位、広くて。いっぱいの国に分かれてて、すっごい人が多くて栄えてる国もあれば、人が少なくて、自然の中で暮らしてる所もあって。……ねールカ?」 「ん?」  一度言葉を切って見上げると、少し笑うルカ。   「何?」 「この話、楽しい?」 「ああ。ソラの世界、知りたい」  笑って言うので、ん、と頷いて、続けることにする。 「魔法は無くて。一番早く遠くまで移動できる乗り物は、飛行機って言ってさ。でっかーい乗り物に、何百人も乗って、空を飛ぶの」 「何百人も? どーやって飛ぶんだ?」 「えっ???」 「……えって何だよ。どーやって何百人も乗せて飛ぶんだ?」  ルカがクッと笑い出しながら、もう一度聞いてくるけれど。 「……浮く力がどうとか……重力がとか……翼があって……?? なんか難しくてよく分かんない」 「分かんなくても飛ぶのか?」 「んーと……オレは分かんないけど、分かる人がいっぱい居るんだよ」 「ふうん……」  頷きながら、ルカがクスクス笑ってる。 「あ、あと、船は使われてるよ。アランの船よりもっともっとおっきい船があって」 「船は一緒なんだな」 「うん。あと普段は車って言う乗り物が一番使われてる」 「車?」 「……馬車って、ある?」 「あるよ」 「馬が引く所を……エンジンっていう機械があって。それで動くの。 馬よりずっと早いよ」 「ふーん? それがどうやってできてるかは」 「……知らない」  ルカはまたクスクス笑う。 「知らない事だらけか?」 「――――……うん。使ってるけど、作れって言われても、無理なものばかりかも……」 「知りたくなんねえの?」 「……あんまり考えた事もなかった。そういうもの、て思ってた」  ルカは、ふうん、と言いながら、笑ってる。 「……乗せてみたいなー、ルカのこと。飛行機にも車にも」  「そうだな」  ……絶対びっくりするだろうなあ。  想像すると楽しい。クスクス笑ってると。ふと、顔を見つめられて。 「いつも、何して生きてたんだ?」 「何してって?」 「魔物とかと戦う事も無くて、移動も速くて。作る物とかも、早くできそうな気がするし。ってことは、時間が余るんじゃねえの?」 「若い人は学校に通って、勉強して……大人になったら、働く」 「ソラは? 何してた?」 「まだ学校行ってたから、勉強、してた。色々」 「勉強、か。こっちも、文字や魔法の勉強はするけど……」  ふーん、とまたルカが笑う。 「何かソラと勉強が、結びつかねえな」 「っ……失礼すぎない?」    むっとして、ルカを睨むと。ぷ、とルカが吹き出して。 「勉強だけして生きてたと思えない顔してるし」 「ほんとひどくない? オレ、一応毎日学校、行ってたし」 「知らないこといっぱいあるみたいだけどな?」 「うーん……そう言われるとそうだけど……」  確かに学校、行ってたけど。  ――――……なんかそこまで必死に、勉強だけつきつめてた訳でもないし。  言われてみれば、便利に使ってたものたち、どーやって出来てるかも知らないしなぁ。  ……なんならこっち来る前の春休みなんて、バイト以外は……この、ルカ達のゲーム……といっていいのか分かんないけど。とにかくゲームばっかりしてたし。  何やって生きてたんだろうと聞かれて改めて考えると、なんか全然大したことしてなかったような……?? 「そう言われると、オレって、何してたんだろ」 「――――……は。面白いなーお前」  何だか色々考え始めたオレを、ルカが本当に面白そうな顔で見つめてくる。 「……なんか毎日のんきに生きてたかも……なんかごめん……」 「何で謝るんだよ」  苦笑いのルカは。  ん、とオレを地面に立たせて。まっすぐに見つめてくる。 「……そういう世界だから、ソラはそんな感じなんだろ。いいんじゃねえ?」 「――――……」 「誰かが得意な事知ってて、誰かが何かを作れて、それを使いたい奴らが使って。命の危険が近くにある訳でもなくて。……で、ソラがそんな風に生きてこれてるなら。それでいいし。……つか、こっちの世界も、そうなるといい」 「……」 「まあでも。そこで生きてる皆がソラみたいに、和む奴かといったら、そうでもないだろうしな」  ルカはそう言って、オレの頭をくしゃ、と撫でて。 「ほら。部屋行くぞ」  階段を上り始めながら、手を差し出してくる。 「――――……うん」  ――――……手を差し伸べられて嬉しい、とか。  ……ほんと、変なの、と思うのだけれど。  自然と笑ってしまいながら頷いて、その手に触れる。  手を繋いで引かれながら。ルカの城を一緒に歩き始めた。

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