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「誰かのため」

「そうだ。ソラ、酒出してきてくれる?」 「あ、うん。分かった」  アランの言葉にオレが頷くと、皆、嬉しそうに笑う。  やっと飲めるって感じなんだろうなあ、皆。お酒好きなのに、海に出てからいつ戦うか分からないせいで、飲めてなかったもんな。  良かった、ほんとに。倒せて。 「ソラ、手伝うか?」  ルカが声をかけて立ち上がりかける。 「大丈夫だよ、隣の部屋の棚だから持ってこれるよ?」 「いや、やっぱり一緒に行く。一人だと少ししか持てないだろ?」  立ち上がって、オレの隣に並ぶ。 「え、そんなに飲むつもりなの?」  笑いながらルカを見つめると。 「つか、皆、飲むよな?」  ルカが皆を振り返ると、皆も当然、みたいな顔で笑ってる。 「てことでやっぱ、手伝う」 「うん。そうだね」  あは、と笑いながらルカを見上げた。  一緒に酒を置いてた部屋に移動して、しまい込んでいたお酒を出していく。 「良かったね、お酒、飲めるようになって」  酒の種類を見てるルカを振り返ると、そーだな、と笑うルカ。 「ソラも少しなら飲んでいいぞ?」  クスクス笑ってそう言われて、「どうして少しなの?」と聞くと。 「お前大体眠り始めるから」 「えー、オレ朝っぱらから寝ないけどー」 「お前、昼間だって寝てたじゃんか」 「いつ?」 「結婚式の時、酒飲んで寝てたろ?」 「…………」  そういえば、そんなこともあったような気がする。 「飲み終えたら、オレとソラはベッドだからな? あんま飲むなよ?」  クスクス笑いながら、オレの頭をよしよし撫でてる。  ……うう。さっき自分から言ったけど。終わったら、ベッド、とか。やっぱ恥ずかしい。  そんなことを思いながらも、オレは、ふ、とルカを見つめなおした。 「――……」  さっきまでこの人は、めちゃくちゃ強い相手と対峙していたんだなあと思うと。  今の穏やかな感じが、信じられない。 「……なんかさ」 「ん?」 「やっぱりルカも皆もすごい」 「ん?」 「アランも、船に結界なんて張ってるしさ……。皆も、あんなデカいのと戦うのとか、普通無理だと思うし。普段の皆を知ってると、どうしてできるんだろって思っちゃう」 「まあ、やるしかないってとこもあったけどな、オレは」 「……そっか」 「あいつらは、別に戦わず普通に暮らしててもいいはずだけど……まあ能力があるってことと、戦う気があるってことだろうな」 「ん……」 「自然と、自分が合うところに行くもんだろ、人間て」  ルカはそんな風に言いながら、ふ、とオレを見つめる。 「お前がここに来たのも、そういう運命なんだろうな?」 「……どうなんだろうね?」 「そう思っとけば?」  クスクス笑って言うルカに、そだね、と頷く。 「ソラは、料理を作ってる時、楽しそうだぞ? 甘いものを作ってる時もそうだったけど」 「そう?」 「楽しいと思えることをすればいいと思う」 「ルカは、戦うの楽し……くは無いと思うけど……つらくないの?」 「つらい? ……つらいというか、大変な時はあるけどな。さっきもまあまあ条件厳しかったし。でもあれで倒せれば、誰かが救われるだろ。オレはそっちが楽しい」 「――そっか」  ほんと、カッコいいなぁ。  自分がすることで、誰かが救われる。それが楽しいって……。  なかなか言えないよね。すごい。  ……うまく言えないけど。  何だか、その覚悟にひそかに感動してしまう。  生きてきて、そんな風に思った事はなかったな。 「オレね、ルカ」 「ん?」 「このままここに居るにしても、どこか別の所に居るにしてもね」 「ん」 「ルカみたいに、誰かのためにとか……頑張って生きることに決めた」 「――……」  言うと、ルカは、ふ、と笑んで。 「ここに居ろよな。誰かじゃなくて、とりあえず一番に、オレのため、がいい」  笑み交じりにそう言ったルカに肩を抱き寄せられて、頬に口づけられた。  しれっと、恥ずかしいこと、平気で言うなあ……。  オレはついていけずに、照れながら思う。

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