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「キス」
◇ ◇ ◇ ◇
「――――……」
なんか、ユラユラ、揺れてる。
そう思いながら、力が入ってない体をそのままに、目を開ける。
「……起きたか?」
聞き慣れた声が、笑いを含んで聞こえてくる。
「るか……?」
ひょい、と肩に抱えあげられていて、運ばれている途中だったみたい。
「あれ……?」
「お前寝始めたし、皆もそろそろ寝ようってことで、お開きんなった」
「あ、そっか……」
甲板で、皆と飲んでたんだ。
「皆は?」
「片付けてから寝るって。ソラ、寝かせてやれってさ」
「いーのかな……」
「いいんじゃね? ていうかお前、動く気ないだろ」
「……バレた」
なんかもうぐったりしてて、ルカから起き上がる気も起きない。
呟いたオレに、ルカはクッと笑う。
「……重くないの?」
「軽いけど」
「……ほんと、力強いね、ルカ……」
「お前が軽いんじゃねえの」
「だからさぁ……オレ、向こうではめちゃくちゃ平均だったよ?」
「ふうん?」
クスクス笑いながら、ルカは部屋のドアを開けると、オレをベッドの端に座らせた。ふわ、とあくびが零れると、頭に乗った大きな手に、撫でられる。
「寝ろよ」
笑いを含んだ、優しい声で言うルカをなんとなく、見上げる。
「……ルカも寝る?」
「まだ眠くねえけどお前と一緒に、横にはなる」
一緒に寝てくれるのか。
……ルカと会ってから、ほんと毎日一緒に寝てるなぁ。
「……歯、磨いてくる……」
「――――……」
言った瞬間、魔法が使われた感覚。体を清められるときと同じ。
……うわ……。
「すごーい……」
「……また『便利』か?」
クスクス笑われる。
「うん、すっごい便利。オレ、こういう魔法も、使えたらいいなぁ」
「こういう方が難しいけどな。火を出す方がよっぽど簡単」
「そうなの?」
清める魔法、難しいのか。ちょっと考えるとなんとなくそんな気もして、なるほど、と頷く。「何がなるほどなんだよ?」と笑ったルカに、そのままぎゅと抱き締められて、ベッドに転がった。
「今日はこれで寝て、朝起きたら、風の魔法で船の速度を速めて、陸を目指すから」
「ん。そうなんだ。じゃあ少しは早くつくんだね」
「オレたちが戻るまでは漁には出るなって言ってあるから、多分待ちくたびれてるだろうからな」
「うん。波、収まったもんね。倒せたのかなーって、町の人達も思ってるよね」
「だな」
「……喜ぶだろうね」
「そうだな」
ルカは、ふ、と笑んでる。
ルカが嬉しそうなので、オレも嬉しいは嬉しいのだけれど。ちょっと頭に浮かぶのは。
ルカ達、戻ったら、ヒーローだよなぁ。
……またすごーくモテちゃいそうだな。
とか思うと、なんだかちょっとムッとするこの気分は一体。
「ん?」
ルカが、ふとオレを覗き込んでくる。
「ん?って……何??」
何も言ってないけど? 不思議に思って、ルカを見つめ返すと。
「服、握り締めてくるから。なんだよ?て聞いてるんだけど」
服、握り締めて??
言われてハッと気づくと、確かにルカの服の脇の辺り、きゅーと握り締めていた。
あれ。
……なんか自然と。
「どうした? 変な顔して」
ルカのでっかい手が、オレの頬にかかる。
ルカの手って、ほんといつも熱い。
こうやって触られると、いつも、なんか、オレの体温まで上がりそう。
「なんでもない」
握り締めていた手をそっと離して、そう答える。
「ふーん……」
またオレを見つめたルカが、ニヤ、と笑う。
ひょい、と動かされて、枕に頭を沈めさせられる。
部屋の中は、暗めのランプがついてるだけ。
オレンジ色の中で、ルカに真上から、見つめられる。
「ソラ」
「……うん?」
「キスしろよ」
「……オレから? 何で?」
「されたいから」
……いつもだけど。直球だなぁ。
まあ。……なんか、もういっか。……キスする、くらい。
「ルカからは、しないでよ? オレがするからね?」
「……分かった」
面白そうに笑うルカの首に手を回して、ぐい、と引く。
ルカの、なんだか笑んでる唇を近くなるまで見つめて……見えなくなりそうに近づいたところで、目を伏せた。
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