264 / 293

「キス」

◇ ◇ ◇ ◇ 「――――……」  なんか、ユラユラ、揺れてる。  そう思いながら、力が入ってない体をそのままに、目を開ける。 「……起きたか?」  聞き慣れた声が、笑いを含んで聞こえてくる。 「るか……?」  ひょい、と肩に抱えあげられていて、運ばれている途中だったみたい。 「あれ……?」 「お前寝始めたし、皆もそろそろ寝ようってことで、お開きんなった」 「あ、そっか……」  甲板で、皆と飲んでたんだ。   「皆は?」 「片付けてから寝るって。ソラ、寝かせてやれってさ」 「いーのかな……」 「いいんじゃね? ていうかお前、動く気ないだろ」 「……バレた」  なんかもうぐったりしてて、ルカから起き上がる気も起きない。  呟いたオレに、ルカはクッと笑う。   「……重くないの?」 「軽いけど」 「……ほんと、力強いね、ルカ……」 「お前が軽いんじゃねえの」 「だからさぁ……オレ、向こうではめちゃくちゃ平均だったよ?」 「ふうん?」  クスクス笑いながら、ルカは部屋のドアを開けると、オレをベッドの端に座らせた。ふわ、とあくびが零れると、頭に乗った大きな手に、撫でられる。 「寝ろよ」  笑いを含んだ、優しい声で言うルカをなんとなく、見上げる。 「……ルカも寝る?」 「まだ眠くねえけどお前と一緒に、横にはなる」  一緒に寝てくれるのか。  ……ルカと会ってから、ほんと毎日一緒に寝てるなぁ。 「……歯、磨いてくる……」 「――――……」  言った瞬間、魔法が使われた感覚。体を清められるときと同じ。  ……うわ……。 「すごーい……」 「……また『便利』か?」  クスクス笑われる。 「うん、すっごい便利。オレ、こういう魔法も、使えたらいいなぁ」 「こういう方が難しいけどな。火を出す方がよっぽど簡単」 「そうなの?」  清める魔法、難しいのか。ちょっと考えるとなんとなくそんな気もして、なるほど、と頷く。「何がなるほどなんだよ?」と笑ったルカに、そのままぎゅと抱き締められて、ベッドに転がった。 「今日はこれで寝て、朝起きたら、風の魔法で船の速度を速めて、陸を目指すから」 「ん。そうなんだ。じゃあ少しは早くつくんだね」 「オレたちが戻るまでは漁には出るなって言ってあるから、多分待ちくたびれてるだろうからな」 「うん。波、収まったもんね。倒せたのかなーって、町の人達も思ってるよね」 「だな」 「……喜ぶだろうね」 「そうだな」  ルカは、ふ、と笑んでる。  ルカが嬉しそうなので、オレも嬉しいは嬉しいのだけれど。ちょっと頭に浮かぶのは。  ルカ達、戻ったら、ヒーローだよなぁ。  ……またすごーくモテちゃいそうだな。  とか思うと、なんだかちょっとムッとするこの気分は一体。 「ん?」  ルカが、ふとオレを覗き込んでくる。 「ん?って……何??」  何も言ってないけど? 不思議に思って、ルカを見つめ返すと。 「服、握り締めてくるから。なんだよ?て聞いてるんだけど」  服、握り締めて??  言われてハッと気づくと、確かにルカの服の脇の辺り、きゅーと握り締めていた。  あれ。  ……なんか自然と。 「どうした? 変な顔して」  ルカのでっかい手が、オレの頬にかかる。  ルカの手って、ほんといつも熱い。  こうやって触られると、いつも、なんか、オレの体温まで上がりそう。 「なんでもない」  握り締めていた手をそっと離して、そう答える。 「ふーん……」  またオレを見つめたルカが、ニヤ、と笑う。  ひょい、と動かされて、枕に頭を沈めさせられる。  部屋の中は、暗めのランプがついてるだけ。  オレンジ色の中で、ルカに真上から、見つめられる。 「ソラ」 「……うん?」 「キスしろよ」 「……オレから? 何で?」 「されたいから」  ……いつもだけど。直球だなぁ。  まあ。……なんか、もういっか。……キスする、くらい。 「ルカからは、しないでよ? オレがするからね?」 「……分かった」  面白そうに笑うルカの首に手を回して、ぐい、と引く。  ルカの、なんだか笑んでる唇を近くなるまで見つめて……見えなくなりそうに近づいたところで、目を伏せた。  

ともだちにシェアしよう!