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「消してけー!」
絶対無理!
しかもそんな状態でルカの前に立つなんて、それなら殺された方が……と物騒な方に頭が向かった時、だった。
裂かれた服が左右に開かれた。
「……っやだやだ!……やめろ、バカ!!」
「――――……」
「絶対やだ……!」
力では全然かなわないけど、もうめちゃくちゃ暴れようとしていたオレを見て、魔王が薄く笑う。
「もっと嫌がるといい。それを組み敷くのは、なかなか良い」
「――――……っっ」
暴れるのも興奮させるって……わーん、ルカみたいじゃん!!もう!!
……っっもー!! ルカのばかー!!
――――……っ。
「……ッ……」
……早く、助けに来てよ……! と、思うのだけど。
魔王も、ルカの結界を破れないし見れない。だから、魔王もユイカを使ったんだから、とにかく結界の外に出ないといけないんじゃ……。
……って! ユイカは……??!
今更のことにはっと気づいて、さっきユイカが居た方を見ると、ユイカは祈るみたいに両腕を合わせて、眉間にしわを寄せて、ぎゅと手を握ってる。目が合うと、泣きそうに顔を歪める。
……多分、こんなことになるなんて、思ってなかったんだろうなと、態度で分かる。
つか、ユイカ、魔王を好きって言ってたじゃん。こんなやつの何が好きなのか、意味はわかんないけど。
ユイカの前で、魔王とするなんて、絶対無理……っっ!!
「はな――――……」
言った瞬間。
唇、塞がれて、強張る。
キスとか。するのか、魔王……。
変な感想しか浮かばない。
「――――っ」
最大限、顔を背けて、一度離れる。
「絶対やだ……!! 離せよ……!!」
暴れてるのも、面白がられてる気しかしない。全然抵抗になってない、片腕を取られてしまうと、抵抗すらままならないけど……じたばた暴れてたら、足が何かを蹴とばした。続いて、何か硬いものが、落ちた音。
「無駄な抵抗だな……」
冷たく笑いながら、何気なく、魔王が落ちたものの方に目を向けた。
その瞬間。魔王は、少し不思議そうな顔を、した、ような?
……? 何?
今何が、落ちたんだろうと、オレもそちらに目を向ける。
「――――これは……」
魔王が手に取ったのは、ルカの城で、見つけたスマホだった。オレが持ってた布の鞄に入れてたスマホ。
あ、これ、ひっかけたままここに来てたんだ、と思った時。
「これは、なんだ?」
オレを振り返り、聞いてくる。
「……え。え、と。……スマホ……?」
……スマホ、知ってる? なんだか不可解すぎて、逃げるのも忘れて、ぽかん、と魔王を見つめてしまう。
「何をするものだ」
「……離れた人と連絡、したり……?」
聞くってことは、知らないのか。でも何、その反応。
興味津々な感じがする。何だろう。こっちの世界にはスマホは無いってルカが……。
――――……あれ。
魔王は、さっき、オレが来た時の光を見たことがあるって。
……スマホも……?
何だろう。なんか一瞬、魔王もオレとおんなじで、光に連れてこられたのかと思ったけど……でも当然魔王なんて向こうには居ないし。……何だろ。分かんない。
思いながら、魔王を見ていると、魔王がベッドに戻ってきた。
スマホを、ベッドの端に置いて、オレの手を掴む。
「何かが引っかかる……」
「――――?」
「お前は、興味深いな。――――何か、私と、関係があるのか?」
……関係??
無い無い無い無い。
ぶんぶん首を振っていると、「まあ時間はあるしな」とか意味の分からないことを言って、魔王がまたオレを組み敷こうと、した瞬間だった。
さっき以上に大きな、ガシャン、と激しく割れるような音。オレは身を竦めたけど、魔王はそちらを見て、眉を顰めただけだった。
「ユイカ」
「も……申し訳ありません……!」
呆れたような魔王の声に、ユイカは、深く頭を下げた。
飾ってあった、すごく大きな壺みたいな装飾品が、落ちて粉々になっていた。魔王は、オレを掴んでいた手から、ふっと力を抜いた。
「もう良い――――興が醒めた」
言いながら魔王はスマホを手に取ると、ベッドから降りた。
「この者を綺麗にしておけ。夜にまた来る。ユイカはその時は下がってろ」
ユイカは少し眉を寄せて、でも、小さく頷いた。
「――――あとで、お前の話をよく聞かせろ」
オレを見ながらそう言うと、スマホとともに部屋を出ていこうとしている。
……ちょっと待て。この、お腹の変なマーク、消してけー!!
と叫びたいいのだけど、今やっと離れられるし、ユイカとも話したいし、オレは、言葉を必死で飲み込んだ。
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