285 / 289

「もう意味不明」

 魔王が出て行って、シンと静まり返った部屋。  ――――ユイカは、俯いている。  何を思ってるのか分かんないけど。 「……あの」  オレが声をかけた瞬間。ユイカは、びくっと震えた。  こっちを見ない。  ……てか、見ないか。オレ今、ひどいカッコしてるし。  服の中央から裂かれたんだからもう。布かけてるだけみたいな。  しかも下腹のこのマーク!! 淫紋!!?  馬鹿魔王ーーー変態魔王ーーー!! 消せーー!!  ……と、心の中では叫びながら、聞こえたらまずいので、とりあえず口には出さず、黒いシーツを引っぺがして、自分の体にかけて、体を隠した。  そのまま胡坐をかくみたいに、ベッドに座って、ユイカの方を向いた。 「あのさ、ユイカ」 「――――」  覚悟を決めたみたいな顔で、ユイカが顔を上げて、オレを見る。 「よく分かんないけど……ごめんね」 「――――……え?」  オレが、とりあえずこれは伝えておこうと思った言葉に、ユイカは怪訝そうな顔をした。 「……だって、ユイカは、魔王が好き、なんだよね」 「――――」 「あんな場面、見せてごめん……」  ……オレが悪いわけではないんだけど。  でも好きな人のあんな場面、絶対、女の子に見せちゃだめだよね。いくら黒魔法を使う魔物? 魔女?? 良く分かんないけど、そういうのだったとしても。  そう思ったから、まずそれを最初に言ったんだけど。少し黙ったままだったユイカは、オレから、ぷい、と顔を逸らした。 「……連れてきたの私、だし……」 「――――まあそうなんだけど……」  でもね。なんかね。あれは無いよね……。魔王はユイカの気持ち知らないのか? ……魔王だからなぁ。恋愛とか、ないか……。  ていうか、魔王、性欲はあるんだな。マジ、サイアク……。  とりあえずオレが考えるのは、あいつが夜来るというその時までに、魔王の結界を、出ること、かな。  綺麗にしておけと言われた時は、はあ? 失礼な、オレ汚くないし!!って思ったけど、さっき、シーツにくるまる前に、自分の様子が目に入ったけど、ここまで連れて来られてる間なのか、何回か膝ついたりなんだりしてるからか、怪我してるし、土とかついてるし、服とかもボロボロだし。って服は魔王がやったんだけど。  お世辞にも綺麗な感じではなかった。  よかった、汚くて! おかげで、ユイカの割った音と一緒に、興ざめされて、一時離してもらえたし。  ってか、綺麗にする魔法は、魔王は使えないのかな??  ……使えたらびっくりか。はー良かった! 「あのさぁ、ユイカ……魔王がああいうことするって知ってた?」  オレがそう聞くと、ユイカは少し唇を噛んでいたけれど、オレを見て、首を振った。 「――――人間相手には、しないと思ってた。話がしたいって、言ってた、し」 「……そうなんだ……」  ……人間相手じゃ無ければ、するのか。  魔王の仲間にも女がいるってことだよね。って、ユイカも魔族の女か。 「さっきユイカがそれを割ったのって……わざと?」 「……」  嫌そうだったけど、ユイカは、こく、と小さく頷いた。 「……その紋章。効果が発動したら、抵抗なんて、出来ないから」 「――――効果が発動って? どういうこと?」 「今はまだ、魔法が配置されただけって思って。魔王さまがその気になったら……ソラも、一気にその気になるし。絶対逃げられないから。その前に止めないとって思って……」 「――――ありがと。マジで」  とりあえず、ここに魔王がいないことに、感謝。  あと、ユイカの前で、そんなことにならなかったことにも。 「……ユイカも使われたこと、あるから、知ってるの……?」  オレが、恐る恐るそう聞いたら、ユイカは、ぷるぷると首を振った。 「魔王さまは、人間は相手にしないから」 「……ふうん? そうなん…………え?」  ――――人間は、相手にしないから??  どういうこと??? 「え。ん??? ……ユイカって……魔物……じゃないの?」 「――――」  オレの質問に、ユイカは、ぷるぷると首を振った。 「普通の、人間……。あ、魔力は、分けてもらったけど」  何で普通の人間の女の子が、こんなところで、魔王と一緒に居るんだろうか。全然意味が分からない。  ……ていうか、魔力って分けれるの?? ルカたちは出来なそうだったけど。くそー悪者の方が、妙な力持ってたりするよなぁ。ああ、やだやだ。もう全然、意味不明だ。

ともだちにシェアしよう!