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「想像でしか」
ユイカは、しゃがんで、ちらばった破片を、そっと集め始めた。
「オレ、やるよ。危ないから」
とっさに立ち上がりかけたけど。
「ソラ、シーツひきずってこられると困る。そこに居て」
「あ。……うん」
言われて、仕方なく立ち上がるのをストップ。確かに破片をひきずりそう……。
「私ね……すごく貧しい村に住んでたの」
破片に視線を落としたまま、ユイカが話し出した。
「お父さんとお母さんが続けて死んで……子供の私を助けてくれる人は居なくて」
「―――」
思ってもなかった話。返事が出てこない。
「家にあった食べるものもなくなって、もうすぐ死ぬのかなって思ってたの。どれくらいで死ねるんだろうって……痛くないといいなあって……」
子供だったユイカが、一人で死を考えてた姿を想像してしまって、胸が詰まる。
「そこに魔王軍が攻めてきたの。たくさんの村の人が殺されてくなかで、私、もう今すぐ、死ねるんだって思ってた……なんか良く分かんないけど、一人で死ななくていいんだって、たぶん、そんな風に思ってた」
「――――」
「魔王さまが私の目の前に来たの。……逃げない私を見て、怖くはないのかって聞いてきて……怖くないって言ったの。どうせ死にそうだったからって……。そしたら、一緒に来るなら手下にしてやるって。私は迷わなかった。何で魔王さまがそんな気になったのか今も分かんない。ここに他に人間は居ないし。魔力を分けてくれたのは、他の魔物に人間だってバレないためで……私は、魔王さまのお世話をしてる。ずっと。だから、ずっと、魔王さまだけが好き」
「――――ん」
オレは、小さく頷いた。
「私は人間なんかどうだっていい。魔王様がいればいい。魔王様がすることが全て。私の人生なんか、魔王様がいないなら消えてもいい」
まっすぐな瞳でそう言うユイカを見つめ返す。
感じるのは、やるせないなっていう気持ち。
一人で死にそうになってた子供のユイカを助けたのは、魔王。
何の気まぐれか知らないけど、魔王はユイカを気に入ったんだろうな。人に見捨てられて、死にそうになってたユイカを。
助けてもらって、魔王を好きっていうのも、分からなくはない。
……魔王のせいで、村が貧しかったのかもとか頭をよぎるけど、ユイカにとっては、魔王が救いだったのかと思うと、そんなことを言っても仕方ない気がする。
……人は、嫌いだったんだろうな。
――――オレは、そんな思いを感じたことはない。
元の世界は……そういう死を感じるような厳しい状況じゃなかったし。
こっちの、世界でも……ルカに、すぐ会った。他の皆も、居てくれた。
どっちも、困ったら助けてくれる人が、いつも居て。
それが当たり前な世界に居たから。
ユイカの気持ちは、想像でしかないけど。
「――――……」
不意にこみあげてくるものを、こらえようと思った瞬間には。
目から零れ落ちてて。
あ、やば。と思って、拭うと、ユイカがオレを見て眉を顰めた。
「……何で、ソラが泣くの」
「ごめん――――……オレが泣くとこじゃない……けど」
「そうだよ。関係ないじゃない。私のことなんて」
「……っ……関係あるじゃん。もう。こんなに話してるし。目の前に、居るし」
「――――……」
ユイカは、きゅ、と唇を噛んで、俯いた。
「でもごめん。オレが泣くとこじゃない、と思う……」
ぐい、ともう一度涙をぬぐう。
なんかオレ、こっちの世界に来てから、涙腺がおかしい。
自然に囲まれて、命や死を感じて、向こうでは体験できなかったようなことが、起こりすぎてて。
ルカに会ったことも、感情が揺さぶられる要因な気もする。
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