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「帰りたい」
「ごめん。……もう、泣かない」
息をついて、気を取り直す。ユイカがオレを見て、それからまた俯いた。
そもそもオレが泣くとこじゃないし。しっかりしろ、オレ……。
自分にめいっぱいツッコんでいると。ユイカが、小さな声で話し始めた。
「……私、ソラを、勇者のとこからつれてきちゃったのに……そのせいで、さっきみたいなことにもなって……怒ってないの?」
俯いたまま言うユイカ。少し考えてみるけれど、怒ってる、とは違う気がする。オレは首を振った。
「怒ってはないよ。……ユイカは魔王の命令を聞いただけだし」
「……私、さっきのは、ほんとにびっくりした。人間の男にそんなことしたことないから。……勇者への恨みなのかも。こないだの戦いの後、結構ダメージあったから……」
ああ……あん時の戦いか。
ほんとはあそこで、魔王は倒されて、この世界は救われるはず……だったんじゃないのかなあ……。うーん……。オレが居たから……?
……それだと、オレのせいで、魔王が生き延びちゃった、みたいなことになるけど。良いのかそれ……。ため息をつきそうな気分で、オレは首を振った。
「オレ、ユイカには怒ってないよ。でも、オレはルカのもとに帰りたいとは思ってるけど……」
「――――ソラは……人間が、好きなの?」
ユイカの質問に、何て答えようか、すごく考える。
ただ漠然と、人は好き、なんて、今は言っちゃいけない気がする。
「ユイカは……お父さんとお母さんは、好き、だった?」
「…………」
しばらく迷った末、小さく頷いた、ユイカ。
「その気持ちと、同じかな……周りにいてくれる人のことは、好き、だよ」
「――――……」
ユイカは、黙ったまま、かちりと音を立てて、破片を重ねた。
「あのさ、ユイカ……オレは、小さな子を助ける余裕もないような、そんな貧しいところに生きたことがないから、分からないんだけど……」
「――――……」
「ユイカが、ユイカを助けた魔王を好きなのは分かる……ような気がする。オレも、一人で、困ってる時、ルカに助けて貰ったから。……だけど……魔王はさ……そもそも何で村が貧しかったか……小さい子を助けることもできない位に貧しかったのは、誰のせいか……」
ユイカは、手を止めて、動かない。
……言わない方が、いいのかな……。そう思いながらも、やっぱり、言っておこうと思った。
「ルカ達は……魔王が苦しめてる、普通の人たちの暮らしを守ろうとしてる。魔物に襲われない世界を……ルカが頑張ってるのを、オレは、応援したい。ルカが、ちゃんとそれを出来たら、そんなに貧しい村もなくなるかもしれない……て、皆が普通に生きられる、かも……」
ルカや皆の顔を思い浮かべると。
そんな気が、する。
ここがゲームの世界なのか、もうなんなのか分かんないけど。
ルカ達ならそれをしてくれると信じる。
「ごめん、ユイカ――――オレは、ルカ達を信じてるし。ルカ達が好きだから……ルカのところに、帰りたい」
「――――……」
「ユイカが帰してくれたら、多分あんまり、よくないだろうから……オレが勝手に逃げられるようなところはないかな? ……魔王の結界さえ抜けられたら、もしかしたら、オレのこと、仲間に見つけてもらえるかもしれない」
ミウは呼んだら聞こえるかな。……いつも、聞こえてなさそうな遠くから来てくれる。……声じゃ無いのかもしれない。確証はないけど。
ルカも――――オレが結界の中にさえいなければ、見つけてくれるかも。
多分きっと、今、居なくなったオレを、探してくれているはず。
しばらく黙っていたユイカは、む、と口をとがらせていたけれど。言いにくそうに、オレを見た。
「ソラ、それつけたままで、勇者の所に帰るの」
「――――……それって……これだよね……」
正直、こんなものつけて、ルカのところには行きたくない……。
「帰れるの? 魔王さまの、そんなのつけて……向こうに行って、いらないって言われるくらいなら、ここに居たら……?」
いらない、か。
……確かにこんなものつけて、帰ったら……呆れられるかもしれないけど。
「いらないとは……言わない人たちだと、思う。呆れられるとは、思うけど。でもきっと、解除する方法、探してくれるんじゃないかな……」
「それ、なかなか外れないと思う。魔王様の魔法だし」
「えええ……洗ったら落ちるとかは」
「――――……」
ユイカは、ぱっとオレを見て、すっごく嫌そうな顔をした。
「落ちる訳ないじゃない」
「…………ちょっと言っただけだし……」
場が和むかなと……。
言わなきゃよかった、超馬鹿だと思われた。
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