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「自分にできること」

「私は手伝えないよ。……魔王様に嫌われたくないもん」  ……そうだよね。まあ、分かる。……それに、オレを逃がしちゃってその後、罰とか与えられちゃったら困るし。 「……あのさユイカ。さっき魔王が綺麗にしとけって言ってたけどさ。お風呂とか、あるの?」 「ある。案内する」 「うん。あとさ、新しい服、ある?」 「ある」  このお腹の変なのは洗って落ちないだろうけど、まあとりあえず、威力を発動してなきゃただの飾り? よく分かんないけど。体的には今は何の変化も無いし。  とりあえず、色々汚いし、膝とか痛いし、服、切られてボロボロだし。とりあえず、逃げるためにも、ちゃんと服着てちゃんとしておかないと。裸で逃げんのはさすがに嫌。  と、いうことで、オレは、破片を片付け終えたユイカと一緒に部屋を出た。シーツを肩から掛けて、くるんと巻いて歩く。歩きにくいけど、一応靴は履いてるし。シーツの中に一応鞄を抱えてる。スマホはとられちゃったけど、一応短剣、入ってるし。――魔王には何の意味もなさそうだけど……。  ……ていうか、マジで。こんなとこを、こんな風に歩くとか。ちょっと前まで考えもしなかった。  もしかしたら、いつか元の世界に戻れちゃったりするかもしれないけど、でも、この世界に居る限りは、ルカの側に居られるとか、なぜか勝手に思ってしまっていたのかも。この世界で一人になるとか、想定外。しかも魔王……。  ……ここは、まだ魔王の結界内、なのかなあ……。きっとそうだよな。結界って目に見えないから、全然分かんないけど。 「――――ミウ?」  試しに呼んでみる。石造りの廊下、シンとしてるので、何だか、響いた。じっと待ってる間、ユイカがオレを見て、不思議そうにしてるけど。  ……来ないよねぇ。うーん……。  ミウは、呼んだら遠くに居ても来てくれてたし。場所をワープすることも、出来る。どういう原理なのか全然分かんないけど。オレの声を聞き取ってくれてたような……? でも、そもそも結界で外から見えなくて、オレの声も聞こえなくて、だと、来てくれるはずがないのかなあ……。 「……ソラって、魔法、使えるの?」 「使いたいけど……使えないんだよね」  そうなんだよ。オレが自分でルカの元に戻れれば誰にも迷惑かけないのに。  はー。どうしよ。  ……まだルカや皆と会ってから、そんなに長い月日が経ってる訳じゃない。  それでも、きっと、皆はオレを助けにこようって、きっとしてくれてる。  結界内で見えなくて、どうにもできなくても。どうにかしようと考えてくれている。きっと心配してくれてる。  ……なんでか、オレは、信じてる。  だから、オレは少しでも。自分で、できるとこまではどうにかしないと。  ……とりあえずさっきの、すごく閉じ込められた感のあった部屋は出られた。すごく天井の高い、この通路の方が、まださっきの部屋よりはいいような気もするけど、ミウには声が届かないみたいだし。  お風呂なら、窓があるかな。とりあえず、色々動いてみるのはきっと良いはず。お風呂の中には、ユイカは来ないだろうし。一人で考えられたりできるかな。  ルカ、オレ、ちょっとは頑張るから。見つけてね。ミウも!!  ほんとはすごく不安だし、怖いし、魔王のこととか考えると、大分泣きたい気分だけど。  だって、さっきは人間の姿だったけど、あれ、もとは、最初に見た化け物だからね……! あれに変身されたら、オレ、多分、秒で死ぬ自信があるもん。考えたら、めちゃくちゃ怖い。  でも、泣いていても何も好転しないのも分かってる。  東京に住んでたオレだったら、震えて動けなかったかも。  ……強いルカや皆の側で、少しは、影響、受けてるのかも。  ――――なんとか、結界の外、出られないかな。 (2024/8/9)

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