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「心臓が」
祈るような気持ちになりながら、歩いた先は、なんだかものすごく広くて大きいお風呂だった。前に温泉に行ったけど、イメージ、似てる。
ここ、魔王も入るのかな……?
うーん。魔王とお風呂が結びつかない。ルカみたいに魔法で清めて終わり、みたいなことができるなら、それでいいって言いそうな感じだけど。ていうか、魔王って清めるのか? 分かんないなあ……。ていうか。魔王とそういう行為っていうのがそもそも浮かばない。ていうか……それ言ったら、勇者とも浮かばないか……。
オレ、今、何考えてるんだろう……マジで。
「私、こっち向いてここに居るから。ソラ、入っていいよ」
「え、ここに居るの?」
「だって、完全に目を離すわけにはいかないし。ここに新しい服置くね」
そう言って、ユイカは、脱衣所っぽい場所の椅子に、腰かけた。
一人にはなれそうにないけど、まあ、とりあえずお風呂。
ユイカが新しい服を置いてくれたカゴの中。体を巻いてたシーツで鞄を少し隠しておいた。
中で、体を流して洗ってから、黒い石で出来てるお風呂に足からゆっくりと入って、お湯に沈んだ。……ちょっと、膝にしみて痛い。
「あのさぁ、ユイカ」
「……ん?」
「――――オレが、さ。後で、魔王と……そんなことになったら、嫌、だよね?」
オレがお湯に入ってることは分かってた、ユイカは、ふと、オレを振り返った。
「嫌だけど……私に止める権利は無いから」
「……ていうか、オレが絶対嫌だし」
言うと、ユイカは、ため息をついて、でも何も言わず、無言。
「オレ、ルカに……結婚しようって言われてて」
「――――……」
「だから、オレ、魔王とは無理だから」
ユイカは、きゅ、と唇を噛んで、少し視線を落とした。
「でも私は、ソラを帰すことは、無理だから……」
そうだよねぇ……。
どうしようかな。どうしたら、ユイカの力を借りず、結界の外に出られるかな。
また、オレから視線を逸らして、向こうを向いたユイカ。
オレは、そっと、お風呂を見回した。
……窓はあるな。格子は、見えない。――こんなとこから逃げる奴、居ないからかな。
大きさ的には、出られそうだけど。鍵がかかってたとしても、割れそうかな。――この窓の外って、どうなってるんだろう。
「あのさ、ユイカ。魔王の結界って――途切れてるとこは、ないの?」
「――」
「例えばこの窓の外とかさ……」
聞いたオレに、ユイカはうつむく。――言えないか。
……まあユイカがあとで責められるのは、嫌だし。でも夜まで大人しく待つのは、絶対嫌だし。
「結界って……外からは守られてるけど、中からは……」
ユイカが言って、そのまま黙った。
「――――……」
何。今の……。
この世界の結界って……外からは見えないようになってて……。
中から、何かされることは、想定してないってこと?
――――そっか。町に張ってるルカの結界も、外からの魔物には見えないようになってて、侵入はガードしてるけど、中からは何も問題無く出られるし、人は行き来自由。どうやって張ってるのは全然分かんないけど、とにかく、外から、守るための結界?
じゃあ、中からは……??
この窓――さっきの部屋とは違って、格子はついてない。
割れる――? 割れたら。ミウを。呼べる?
この下が、万一、城の一番上とかで、降りることが出来なくても。
ミウが来てくれたら。ルカのところに飛べる、かも――……?
なんだか、心臓が、逸る。
(2024/11/07)
このお話も進めたくて、BL大賞に出しました。
更新してないんですけど……いま124位で。ありがたいです( ノД`)
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