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「ハプニング」

 じー、とお風呂の窓を見ながら、考える。  ……うーん。  割れそうな気はしないけど。……試してみる価値はある??  正直、めっちゃくちゃドキドキするんだよね。  ていうか、オレさ、平和な日本で、そんなに怖い目にも合わず、のほほんと暮らしてきてしまった、ただの大学生な訳だよ。  ――なのに、何でか、こんなとこ……魔王(化け物バージョン)VS勇者の戦いの真ん中に落とされて。んでもって、そのまま、勇者に助けてもらおうと思ったら、ドSでドエロイ勇者だったもんだからあんなことになってさ。……なぜか、めちゃくちゃ執着されたし、オレも……だけど。  つかオレ、なんであの戦いの場に落ちたの? 記憶が正しいなら、オレは、ゲームをやってただけなんだよ。ゲームしてて、さあ、最後の決戦でとどめ……! てとこで、突然、テレビが光って……。  何だったのあれ。マジで。  でもってこっちに来てからは、ルカと居ちゃってるもんだから、でっかい鳥の魔物の足に掴まれたり、変な花にくわれたり、でっかい魚のお腹に入ったり、極めつけは、魔王の城とか! 信じられないものにいっぱいあってるけど、よくよく考えたら、オレって、全然戦う術のない、ただの大学生でさ。  しかも、大学生男子を半分に分けたら、絶対非力な方に入ると思うのにー。  体を使った喧嘩なんて、したこともないし、しようと思ったこともないタイプなのだ。  いや、ちがう、落ち着け。  別に、剣で戦う訳じゃない。  ……取り合えず、着替えるでしょ。新しい服と、靴を履いて、動けるように。そしたら、鞄から、短剣を出して、窓に寄って――柄の方で叩いた方が、力が入って、割れそうな気がする。  ユイカは魔法を使えちゃうし、どんな魔法を使うかも分かんないから、とりあえず、着替えるからって、向こうを向いててもらって、そうっと窓に近づいて、がイイよな。  超ドキドキしながら、ふぅ、と深呼吸。   「出るから、向こう向いててねー」 「うん」  ユイカが返事をして、座ってる。  服を着て――鞄を、斜めにかけて。よし……!!  気合を入れて、とりあえず、ガラス割れるだけ強く!!  と思って、窓を見た瞬間。 「は――?」  窓の向こうの光景に、驚きすぎて、硬直。  え、何あれ。燃えてる……?  窓の外。さっきまでは、青空っぽいのが透けてたのに。  どう見ても、炎に見える。何これ。 「ユイカ、これって、何か分かる?」 「これって?」  振り向いたユイカが窓を見て、険しい顔をした。何かわからないってことだよな。なんだ、炎? 「――え、何これ? でも、結界があるから、城が燃える筈はないのに」  そうなのか、じゃあこれは何?  オレ窓割ったらどうなんの?? って、城が燃えないはずって言うなら、割れもしないのか、結界で。  わー、もーどーしたらー!! 「城の外、見て来ないと! ソラも、来て」 「えっオレも?」 「だって、置いてく訳に行かないし……!」  手を掴まれて、ふわっと体が浮く。  あ。これ。  そう思ったら、またユイカの周りが紫色に光った。

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