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「白いふわふわ」

 ユイカとリアの魔法は、少し違う。まず包まれる時の色が全然違うし。  でも感覚的には、浮いた感じで移動する、同じ系統の魔法ではある。  ついた場所は、多分、今の今まで中に居た城の、外。正面の入口を出たところ、だと思う。  振り返ると、城が高くそびえたっていた。おお、高い……! オレはさっき、何階に居たんだろう。  ――目の前に広がる光景は、なんだか異様だった。  炎が目の前にある。でも、何も燃えていないというか、ただ空中に火が舞ってるというのか。  呆然と見つめていると、分かった気がした。結界が張ってあってバリアみたいになってるその外側を、風と炎が襲ってる――ような感じなのかも。でも、結界があるから何の意味もない感じ。炎の向こうに何があるかは、こっちからは、見えなかった。  結界のこちら側で、魔物たちが、騒いでいる。  襲われる? と思ったけど、ユイカが魔物に「何事?」と尋ねると、「分からねえ」と応えてくる。  ……喋れるのか、ここに居る魔物は。そっか。喋れる奴らも居たっけ……。  ユイカと居るから、敵だと認定されないんだろうか。すぐ攻撃してくるって感じはしないのと、多分、皆、炎に狼狽えててオレを気にしていない。とりあえず今は大丈夫そうだ。  なに、これ? 呆然と見上げる。   炎が凄すぎて怖いけど、少しも熱くない。結界って、すごいな。  オレ、絶対、短剣なんかで破れなかっただろうな。この炎が遮られているところを見ると、城全体をすこし余裕をもって、覆ってる感じなのかなあ。  たとえ短剣で窓が割れたとしても、この結界の中では、ミウにも声は届かなかったのかも。  ――無駄に手を痛めなくて良かった。  っていうか。ほんと、どうやって逃げればいいんだろう。夜になったらとんでもないことになる。  オレは、魔王の子なんかいらない。  これがたとえ夢だとしたって、そんな夢いらない。  産むなら、ルカの子がいい。…………いや、いくら夢でも、オレは産めないけど。  ていうか、なんか考えが逸れた。  思いがけず、城の中からは出られたけど。出られたって、ここに結界があったら、無理じゃん……!   もー! しかも結界の周りに炎ってさ!! 「ユイカ、これ何なの?」 「わかんない。初めてだから」  そうなんだ……。あれ、でも――ここから駆けだしたら、結界を抜けられたり……?   ユイカ、中からならって言ってたのは……外からは出られないけど、中からは行ける?   でも今は炎で何も見えないけど――行けるのかな、と悩んでいると。  「何の騒ぎだ」  一瞬で震えるくらい寒くなるみたいな、冷たい声が、上から響いた。  ――魔王だ。二度と会いたくなかった。会わずに逃げたかったのに、魔王が、上に居る。空飛んでるのかな。あー見たくない。見なくても良いか。と強張っていると。 「ユイカ。そいつを連れて部屋に戻っていろ」 「――はい」  ああ、どうしよう。部屋に戻ったら、終わりな気がする。  さっき、ユイカ――中から、外に出るならって。  でも、火が燃えてる。でも、火って、一瞬で燃え尽きたりは、しない、よね?  ――結界に、ぶつかったらぶつかったで。超痛そうだけど、それでいいや……!! あとのことは、あとで考えよう。まず可能性のあることを、しよう。 「ソラ?!」  オレは、走り出して――外側が炎の、結界に突撃……! でも、衝撃は無かった。通り過ぎた時、火に触れた気がした。 「熱――――っ」  燃えるのか、と思った瞬間。  あれ。――熱く、ない。  オレ今――火に、触ってるのに。なにこれ……。  意味が分からなくて、パニックになった時。  目の前に現れたのは、真っ白い、ふわふわの――……。 「ミ……ミウ……?」  声に出したオレの目の前に。  空中から、ぽん!!っと、現れたのは。  びっくりした顔の、ルカ、だった。だも、すぐに体勢を整えて地面に降り立ったルカ。  オレは、ルカを見つめて。 「ル――」  名前を呼ぼうとした瞬間、ぐい、と抱き寄せられた。 「ソラ」 「――っ」  この、声。   この抱き寄せられる感じ。  この、瞳。 「ソラ、無事か」 「――……」  無事……? と考えた時、お腹のへんな模様が浮かんだけど、あれはもう後だ。今、説明できる気がしない。  とりあえず、オレは。体全部普通にあるし、生きてるし。 「とりあえず、大丈夫……!!」  そう言ったら「とりあえず?」と首を傾げながらも、オレの顔を見下ろして「生きてて良かった」とニヤリと笑う。うんうん、と頷いたオレの肩を抱いたまま、ルカが、魔法で空中に上がった。  上から見ると、魔物が、ぎゃーぎゃー言いながら、オレ達に近づいてきていたのが、分かった。

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