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「重なり合う世界」
「オレが話す? ゼクスが話す?」
軽そうに見える短髪のカノンが言うと、長髪のゼクスが、少し間を置いてから、ゆっくり頷いた。
「カノンが話していい。違ったら言う」
「了解。じゃあソラ、よーく聞いてろよ?」
オレは気を引き締めて、うん、と頷いた。
「オレらは世界を見届ける神なんだ。で、その世界ってやつは、ある世界を中心に、重なり合って存在してる訳。無数にあるし、神も無数にいる、と思ってくれていいよ」
「……うん」
「その中心にある世界っていうのが、ソラが元居た世界なんだよ。そこは、|創神《そうしん》が管理してる、基準になる世界だから」
「そうしん?」
「すべての世界を創造している神様のこと。オレらより、ずっとずっと偉い神様」
「……うん。それで?」
いろいろ聞きたいけど、とにかく先の話も聞きたい。
「オレ達みたいな普通の神が、ある世界を作って管理したいってなった時、ふたつ方法があるんだ。ひとつは、自分たちで一からコツコツ作り上げていくのと、もうひとつは、創神にお願いして、ある程度作りあげて貰う方法。今回オレ達は、創神にお願いしたんだ」
「うん」
「お前があの時やってた、ルカ達が主人公のあのゲームあるだろ? オレ達、あのゲームがすごい好きでさ。ほぼそのまんまの、同じ世界を作ってもらったんだよね」
こいつら神なのに、あのゲーム好きなんだ……ていうかゲーマーなの?
謎すぎて、ツッコミ入れたいことは色々あるけど、とにかく、マジでそれよりも聞きたいことがいっぱいありすぎる。
「世界を作るって、どうやって……?」
「創神は、オレ達の望むことが分かるから。世界観と、世界の進む方向を決めてくれて、必要なキーになる人物を作り上げてくれる。時間経過は、オレ達が見たいところまでは早送り――と言っても、中にいる人間たちは、ちゃんと生きてる感覚で居るんだけど、そこまで分かる?」
「……うん。なんとなく」
言うと、なんとなく、が嫌だったのかちょっと顔をしかめるカノン。
するとゼクスが、苦笑しながら言った。
「なんとなくでも分かればいい。大事なのはこの先だし」
その言葉に、カノンはため息をついて、話を続けることにしたらしい。
「ちなみにお前の世界も、創神が作ったものだからな。創神が作った人間ってところでは、ルカたちもソラも同じ生き物だよ。ただ、魔法が使える世界っていうのが大きく違うだけ」
オレは、たまに返事をしながら、ただただ頷くだけ。
言うなら、ゲームの説明シーンを聞いてるみたいな感覚だ。
自分には関係ない、ゲームのあらすじや世界設定みたいなのを、神や神父や王なんかが、冒険者に話すシーン、みたい。理解しようと頑張る。
「ある程度の世界を作ってもらったら、管理はオレ達がやるんだよ。ソラが分かるように言うと……育成するゲームって感じ。分かる?」
「……育成ゲームって単語を神様の口から聞くとは思わなかったけど……まあ、分かる」
カノンは「分かるように言っただけ」と苦笑しながら、先を続けた。
「中には、作った世界の人間に、細かくちょっかいを掛ける神も居るけど、オレらは何個も世界を管理してるしさ……どっちかというと自由にやってほしいから、そこまでは細かいことはしてない訳。分かる?」
「うん」
「で、たまに今どうなってるかなって覗きに行くんだけどさ。実際、人間は生まれ落ちてしまえば、自分たちで考えて動いてくれるし。ある程度の設定は組み込まれているから――たとえば、ルカの世界なら、ルカが魔王を倒すってことだけはもう絶対条件だけど、それにどう取り組んでいくかとかは、もうルカが全部考えて、全部決めてるんだよ」
「――うん」
「で、創神に、世界を作ってもらった後、魔王を誕生させようって時に、どうしようかって考えたんだよ。ルカの世界の人間を魔王にするか、完全に化け物として作り出すか、それともって色々。……でも、あのゲームだと、病んだ人間が魔王化したって設定だから、そうしたかったんだけど、創神が作りたての世界には、そんな病みまくってる適当なのが見つからなかったんだよね。分かる? やっぱり原作を追いたいじゃん? 妥協したくないっていうかさ」
「うん……まあ」
なんとなく、と、また言いそうになって、そこはなんとか止めた。話、進めてほしいから。
「で、二人で相談したんだけど……つか、しゃべり疲れた、ゼクス、続けて」
べ、と舌を見せたカノンに、ゼクスはため息をつきながら、後を引き継いだ。
「――話し合って、ソラの世界から病んだ人間を連れて来ようと決めたんだ。もともとそういう素質のある人間を使った方が面白いと思ったから」
「そういう素質、て?」
「残酷さとか非情さ。人命を軽視したり、無慈悲な決断ができるところ。自己中な考え方。強い意志とかかな。カリスマ性みたいなのも欲しかった」
「……え、それ、オレの世界に居たってこと?」
そう聞くと、ゼクスはオレを見て、それから少し皮肉気に笑った。
「いるだろ? そういう人間は有名になって知られているはずだ。事件を起こすこともあれば、権力を持てば戦争とかも起こす奴も居る」
「――――」
「多分、魔王に選んだあの人間は、そのままソラの世界に置いておけば、何かしらの事件を起こしていたかもしれない。こっちの世界で魔王として活躍してもらう内に、そういう負の部分が解消されれば、良い人間として、戻ることも出来るかもしれない」
「……そうなんだ……それで?」
「連れてくるって言ったけど、ひとつ問題があるんだ。重なり合う世界の中で、「命のバランス」を守らないといけない。ソラの世界から一人抜くなら、代わりの命を、ソラの世界に戻さないといけない。短期間ならいいんだが、魔王となると長期間こっちにいてもらわないといけないからさ」
「……それ、バランス崩れるとどうなんの?」
「さあな……そういう決まりなんだ。言われているのは、死ななくて良い奴が死ぬとか、生まれる筈がなかった命が生まれるとか、少しずつ歪んでいくらしい。バランスをとることが決まりだから、神は皆、守っているはずだ」
「……うん」
バランスか。ふむ。……分かんないけど、言ってることは大体は、分かる。
「魔王になる奴を連れてくるかわりに、こっちにいた動物をソラの世界に送ったんだよ」
「……それは、人間と動物で交換でいいの?」
「オレらが管理する命って点では一緒。ルカの世界からソラの方に人間を送ると面倒なんだよ。ソラの世界は色々ときっちりしてるから、今まで居なかった奴が出てきたら、何かとややこしいだろ。だからこっちの動物を、そっちに居る動物に変身させた」
「あー……うん。まあ、そこまでは、分かった」
それで何でオレが、こっちに来ることになるのかはまだ全然分からないけど。
とりあえず、ここまでは。なんとなく。
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