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「オレの望み」
「――誰だ?」
立ち上がったルカが鋭い声で言った。下手したら攻撃しそうな勢いを感じるので、オレは慌てて、ルカにちょっと抱き付いた。
「あのね、ルカ。神様らしい。オレを、こっちの世界に、連れてきた張本人……みたい……」
ルカを止めようと話し出したけれど、自分で言ってても、とってもうさんくさく感じて、最後の方はしりすぼみになってしまった。ルカはオレの言葉を聞いてくれていたけれど、どんどん眉根が寄っていく。
「何だって?」
めちゃくちゃ訝し気にオレを見てから、そのまま、二人に視線を移す。
だよねぇ。オレだって、ルカに言ってる間に、ほんとかよ、と思ってきちゃったもんね……。うーん。困った。しかもなんか、ルカが勝手に目覚めたのが、相当意味が分からないらしく、神様二人して眉を寄せて、ふてぶてしい顔してるから、なんか神様に見えないぞ。
「何なんだ、お前ら」
ルカの低い声。
あああ……。多分本当に神様なのだろうに、お前らって、言っちゃった。すると、ものすごく嫌そうに、ゼクスがルカと目を合わせる。
「この世界の神だ。よろしく、ルカ。オレはゼクス。こっちは、カノン」
「神? いるのか、そんなもん、本当に」
怪訝な視線を二人にぶつけるルカ。
わ、分かるけどー気持ちはー!
「ルカの世界でも、祈りや祝福を、神の名のもとに与えてるだろ。いるんだよ、もう信じろ」
「――――」
ルカは、まだ半信半疑みたいで警戒してて、オレを抱いてる手から力は抜かない。何かあったら守ろうって、きっと、思ってくれているのだと思う。
「ルカ、あの……多分ほんとなんだと思う。一応いろいろ辻褄はあってるというか。とりあえず、オレをルカの世界に……いろいろ間違って連れてきた人達、ではあるみたい……」
「間違って……?」
オレと目を合わせると、またルカの視線がきつくなる。
「――とりあえず、ソラを泣かせたのは誰だ?」
二人に視線を向けて、低い声で言うルカに、オレは咄嗟に首を横に振った。
「別に泣かされてないから。ミウのこととか、あと、ルカが起きて良かった、て思ったら、つい……」
そう言ったら、こんな時なのに、なんだかルカの視線が柔らかくなって微笑んだような気がする。その様子を見ていたカノンが「濡れ衣だ」と迷惑そうに言うけれど、オレは、濡れ衣でもないような、と首を傾げる。
そもそも、オレを間違って連れてきたの、カノンっぽいし……。
でもゼクスだって、落ちてったオレをそのままにしてる訳だし。
まったくもうひどいよね、なんて思っていると。
カノンがルカに向けて言った。
「細かいことは、あとでソラに聞いてよ。ソラ、説明できるよな?」
「う。うん、多分」
「……多分て」
苦笑いの後に、「ま、いっか、それで」とカノンが笑う。
「確かに今回の事態は、こっちのミスってこともあるし……ソラにとっては不運だったなと思ってはいる。正直なとこ、ルカにはこれからもまだ頑張ってもらわなきゃいけないし――だから、オレとゼクスで相談したんだけど」
カノンとゼクスは一瞬顔を見合わせて、それから、一度頷いた。
「ソラの望みを聞いてやろうってことになったんだよ。その為に、本来は出すつもりのなかった顔を見せてやってる訳。ありがたく思ってね」
……よく分かんないけど、ミスったくせに、ありがたく、とか。なんかすげー偉そうでむかつくんですけど。
ルカの「偉そう」度が、可愛く見えてくる。神ってほんと……。
ん? 今なんて?
「オレの望みを聞くって……何? どういうこと?」
(2025/5/30)
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