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「選択」

「――お前に、選ばせてやるよ、ソラ」  ゼクスが言って、カノンと一緒に、じっとオレを見つめてくる。 「お前は、どっちの世界に居たい?」 「え――選べるの、それ……?」 「ああ。選んでいい」  ゼクスが頷くのを見て、オレは何度か瞬きをしてから、ルカを見上げる。  まっすぐな瞳と、ぶつかる。ドキ、と胸が弾んだ。  ――ルカと、ずっと、居られるってこと?  それを選ぶことができる……? 「もしもソラの世界に戻るなら、ソラがあのゲームをしてた瞬間に戻してやってもいいぞ」 「え……そんなことできるの?」 「ああ。望むならそうする。今すぐ、戻るか?」 「あ、ちょっ!! 待って!!!!」  なんだか秒で戻されそうになった気がして、慌てて大声で止めてしまった。ゼクスが首を傾げて、なんだか不満げだけれど……いやいや、違うだろ! 「ルカと話もさせないで戻すなら、オレ達の前に顔出した意味、ないんじゃないの? ちゃんと考えさせてよ」  そう言うと、ゼクスとカノンは二人出て顔を見合わせて、それからオレを見て、「確かにそうか……」とか言ってる。  くうう。なんなのこいつら……確かにじゃないっつーの! もう!  どこかの世界で命が続いてるならいい、なんて言ってるし、神の感覚って、マジで分からない。話通じないよー!! 「もし……もし、ルカの世界に残りたいって言ったら?」 「ルカの世界に残りたいっていうなら、こっちの生き物をまた向こうに送り込んで、命のバランスをとる。今度はちゃんと、ソラが死ぬまでは死なないように結界も張る」 「……どっちの世界に行っても、オレの記憶は、残るの?」 「覚えていたいなら残せる。片方を忘れたいなら、全部消してやるよ」  どっちの世界を選ぶか。  突然の選択肢。  今までも少しだけは考えてはいた。  戻れるなら。残れるなら。少しは考えた。  でも、実際に選べるようになるなんて思ってなかったし、現実的じゃなかったし。なるようになるしかないと思ってたから、考え始めても結論なんか出せてなかった。  こんな、選択を、突き付けられるとは思わなかった。  ちよっと信じられない気持ちもあるんだけど、でも、目の前の二人が言ってることは、否定もしきれない。  オレは、どうしたらいいんだろう。  ルカの世界と、元の世界。  いろんなことが一気に頭の中に浮かんでくる。  それぞれの世界の良いとこや、関わる人達。  どっちに居たいかとか、もうさまざまなことを、思う。 「すぐには、きめられない?」  そう聞かれて、少しだけ、頷いた。  でも、頷くのも躊躇われた。  ここに残るって即答できないのが、ルカに悪い気もして、ほんとうに小さく頷いたら、ゼクスとカノンが顔を見合わせた。 「じゃあ考える時間をやるよ。それでいいか」 「……え?」  オレは、ぽかん、とゼクスを見つめ返した。 「また適当な頃に来る。その間、向こうには二体、命を送っておく。影響無さそうな生き物にするから、心配するな」 「……え、それって、いつまで?」  アバウトなセリフに、一番聞きたいことをとりあえず聞いたら、今度はカノンが笑った。 「オレ達も色々忙しいからさ。他の世界も見たいし。適当に来るからさ」 「適当って……え」 「何か質問ある?」  なんか質問? 質問……。  えー思い浮かばないっつの……! 「無さそうだから、じゃあ今はこれでいっか」  カノンがそう言って、なんだか雰囲気はもう、完全に撤収モード。   「ルカ、ソラのことをよろしくなっ」 「頼まれなくても守る」 「――ははっ。なんなのもうほんと」  カノンが面白そうにルカを見て笑っている。 「聞きたいんだけど……ルカって、ソラのことを愛しちゃってんの?」  ルカは、それには答えず。  でも、オレの肩にかけた手に、力がこもって、より引き寄せられる。 「本当に、ソラの気持ちを、優先するんだな」  そう言ったルカに、ゼクスとカノンはまたお互いの顔を見合わせてから、こっちを見た。 「約束する」  ゼクスの言葉に、オレは、唇を噛んだ。  じゃあ――――……本当に。  オレが、選ばないと、いけないんだ。  ぎゅ、と、手を握り締めた。 (2025/6/6)

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