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「ルカのキス」

 その後、ゼクスとカノンの撤収は、あっという間だった。  どこの町に戻りたいか聞かれて、ルカが「リアの居る、ポースの町」と答えると、「分かった、じゃあまたその内な」と言い――次の瞬間には、オレ達は地上に立っていた。  おそらく目の前に見えるのが、ポースの町、なんだろう。  一応空を見上げてみたけれど、ゼクスとカノンはもうかけらも見えない。  確かに、聞かれても、あいつらに質問は、特に思い浮かばなかったけどさ。もうもう。ちょっとせっかちじゃないかな、神……!  だからいろいろミスるんだよ。  ……多分、あいつら、そんな些細なミスは、大したことないって思ってるんだろうけど。ミスとも思ってないのかも。くっそームカつく。  人の人生なんだと思ってるわけ。  にしても。  今まで、この世界に居て、いろいろ疑問だったことは、多分大体分かった。  この世界は、オレがやってたゲームに真似て作られた、でもちゃんと人が生きている世界。オレが生きてた元の世界も、ルカ達の世界も、もとは神が作ったものなら、存在としてはおなじでいいのかな。  ルカ達には、魔王を倒す世界だっていう設定があるみたいだけど……オレ達の世界には、なにかあるのかな。……あ、でも、あれか。  基準となる世界だ、とか言われてたっけ。てことは、そういう設定とかはないのかなあ。  ……ていうか、この生きてるどこかには、また違う神たちが作って管理とかしてる、無数の世界があるのか……と思うと。意味が分からなくなるけど。  まあでも……関わるのは、普通ならその一つの世界だけ、みたいだったから。そういうのが無数にあっても、関係ないのか。  オレは、あの二人のせいで、二つの世界に絡んじゃってるみたいだけど。  しかも。  ……どっちを選んでもいい、なんて。簡単に言うなよな、くそ神がー!!  ほんっと、人間を管理するなら、ちゃんと心理学、学んでこーい!!!  はー腹立つ。  ものの数秒で、思考があっちいったりこっちいったり。  最終的には神への怒りで幕を閉めて、それ以上、何も浮かばなくなった。 「ソラ。リアのところに行って、それから、シャオの町に戻るぞ」  腕を掴まれて、ルカと一緒に歩き出す。 「あ、うん」 「皆、心配してる。話は戻ってからだ」 「うん。ごめんね」  そう言うと、ルカはオレを振り返って、足を止めた。 「お前が謝ることじゃない。連れ去った奴が悪い――連れ去らせた、オレも悪い」 「……え、ルカは悪くないけど」 「守るって言った」 「……助けに、来てくれたじゃん」  ルカは悪くないよ。  意外なことを言うルカに、オレが膨れていると、なんだか硬い表情をしていたルカが、ふ、と苦笑した。  かと思うと、ぐい、と引き寄せられて、頬に手が触れる。 「っん」  キスされたと思ったら、いきなり舌が、触れる。  ……うう、ここ、町の、入り口……。 「ん、ぅ」  なんか、ルカの腕の中に取り込まれてるので、オレのことは見えなそうだから、いっか……というか、ちょっと動こうとしても、全然、びくともしないし。 「――……っふ」  ルカだ。  ……ルカのキス。  よかったぁ、戻ってこれて。  息、出来ないし。でも、ほっとしたし。なんか嬉しいし。よく分からない感情に、涙がじんわり滲んだ瞬間。 「ソラ……!!!」  オレを呼ぶ――多分リアの声がして。  駆け寄ってくる足音がして、キスどうしよう、と思った瞬間、ルカも気づいて離してくれた。  ぱっと後ろを見た時にはもう、リアがすぐそばにいて――。 「ソラ、良かった……!!」  ぎゅう、と抱き締められてしまった。  わぁもう、この人、ほんと、胸とか当たるの全然気にしないでオレのこと抱き締めるんだからもう……!  思いながらも、気付いたリアの表情。  リア、泣いてる。オレもじんわりさっきの涙の続き……な気分になった時、ひょいっとルカがオレを引き戻した。 「はい、そこまで」 「……っ、ちょっと、もうルカ……!」  リアがルカに怒ってるのを、オレは、ルカの腕の中から見る羽目になった。 「大体、あたしがすっごい心配してるの分かってるんだから、キスしてないで、ソラ、連れてきてよ!! もう! そういうのは、皆のところに帰ってからしてよね! ほんとにもう!! 皆だって、絶対すごく心配してるからね……!」  ……あ、それ、確かにさっき、ルカも言ってた。 「リア、あの……なんか、一応ルカもそのつもりだったみたいだよ?」 「じゃあ何で、ああなってたの?」  そう言われて、ぱっと後ろにいるルカを見上げるが、ルカは特になんも言わず、オレをただ見返すだけ。 「なんでだろ……? あ、でも、早くリアのところに行って、皆のところにって、ルカも言ってたよね?」  苦笑しつつルカをもう一度見上げてそう言うと、リアは、きっとルカを睨む。 「分かってるんなら、そうしなさいよ!! もう!!」  言いながらも、再び、リアがオレに抱き付く。 「よかった……! 怖いこと、無かった? 大丈夫だった?」 「んーと…… 怖いことは、いろいろあったけど、とりあえず大丈夫。ありがとう」  そう言ったら、リアは、うるうるした瞳でオレを見つめて、でもにっこり、笑ってくれた。 「良かった、無事で。あのまま会えなかったらどうしようと思った」  なんだかぐっと泣きそうになりながら、でもオレも、なんとか耐えて、にっこり笑って 返した。 「心配かけてごめんね? ありがと、リア」  多分、リアだけがここに居て、皆はシャオの町で待ってる、てことは……きっと、リアが何かしてくれて、ルカと一緒に来てくれた……? のかな? きっと大変だったと思うのに。  本当にありがと。そう思いながらじんわり涙が滲んでくる。  ルカとリアに挟まれて、視界の上空にぽわぽわ飛んでるミウ。    魔王と魔物たちのいる場所から、戻ってこれて、よかった。  なんだかしみじみ。そう思った。  まあここから……皆に伝えなきゃいけないことも、考えなきゃいけないこと、たくさんあるけど。  そう思うと、ちょっとさすがに、気が重い。 (2025/7/19)

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