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第4話

 支配階級で、高い能力を保持するアルファ。中間層であり、大多数を占めるベータ。そして、発情を伴い、さらに産むための性ともいわれるオメガ。   全人口の一割にも満たないアルファ性の人間は富裕層に多く、それより少ないオメガ性の人間は男でも妊娠・出産が可能ではあるが、ヒートという一定期間発情を持つ特性のため、かつては社会の最下層として扱われていた時期もあった。  そんなオメガの社会的地位が高まったのは今から二百年ほど前に遡る。戦争により、多くのアルファが失われた中で、アルファをまた産み育てたのがオメガたちだったからだ。  アルファ性の男女であってもアルファ性を持つ子供が必ずしも生まれるわけではない。けれど、不思議とオメガが産むアルファの子供はアルファである確率が高かった。  オメガは高い能力の持つアルファを産む、それが一般的に定着してからは、オメガの地位は格段に向上した。  今ではオメガの子供が生まれたというだけで、国からは補助金が出され、丁重に扱われる。 とはいえ、差別意識が全くなくなっているわけでもない。オメガに生まれただけで、国からの補助が得られるという特権を、批判的に見る人間も少なからずいるからだ。  実際、姿かたちこそ美しいが、オメガのほとんどは魔法力を持つこともなければ、発情期の影響もあり、体力的にも劣っていることが多い。  最近は医学も発達し、薬さえ飲めばほとんどのオメガはヒートの間も日常生活を送れるが、多くのオメガはアルファと番になり、家庭に入ることを望む。  それを悪いことだとはリーラも思わない。けれど。 「攻撃魔法はやっぱりかなりの魔法力を必要とするんですよね。実技の後はもう、くたくたで……」 「力の使い方にまだ慣れてないからだろうな。少しずつ、分散することを覚えればそれもなくなる」  やはりアルファ同士ということもあり、話があうのだろう。   エーベルシュタインはリーラに対しとても優しく親切であるが、対等な目線で見てくれているようには思えない。  専門学科である医科の授業においても頻繁に声をかけてはくれるが、それも全てリーラを気遣ってのものだ。  けれど、ミヒャエルに対しては違うのだろう。盛り上がる二人を傍目にリーラはゆっくりとスープへ口をつける。  この学院に在籍しているのはほとんどがアルファであり、一般的には大多数を占めるベータですらごく僅かしかいない。  ……やめよう。考えたって、仕方がない。  自分のバース性に関しては、リーラ自身理解しているつもりだった。  そしてそれでもなお、医師を目指そうと志したのも自分の意思だ。周りと比べても仕方がない、自分は自分ができることをするしかないのだから。 「リーラはエーベルシュタイン殿下に気に入られてるんだな」 「え?」  食事を終え、エーベルシュタインに礼を言って別れた後、隣を歩くミヒャエルに言われた。 「研修先どころか、その後の就職先まで殿下自ら提案してただろう? かなりの特別扱いだと思った」  エーベルシュタインの話というのは、来年から始まるそれぞれの専門学科の研修先に関して、もし見つかっていないのなら自分が紹介するという内容だった。  嫌味や皮肉ではなく、純粋に感心しているのだろう。頷きながらそう言ったミヒャエルに、リーラは慌てて首を振る。 「地方出身で、なんのコネクションもないだろうからって、心配してくれてるだけだよ」  殿下は優しいから。そんなふうに説明すれば、ミヒャエルは「それだけじゃないと思うけどな」と独り言のように言った。  身分が高い多くの生徒は研修先に関しては元々伝手があるのだが、勿論リーラにはそういったものはない。  エーベルシュタインの紹介であれば確かなところであるだろうし、劣悪な環境でこき使われるというようなこともないだろう。  実際、提案された研修先は王都の貴族専用の医院だった。  とてもありがたい話ではあるが、できる限り自分の力で研修先は探したい。ただ、もし困ったら相談に乗って欲しい。  そう、言葉を尽くして丁寧に説明すれば、エーベルシュタインも理解をしてくれた。 「正直に言うとさ、エーベルシュタイン殿下っていかにも王子様って感じで少し苦手だったんだけど、話してみると面倒見のいい方なんだな。いやあ、アルブレヒト殿下もかっこいいけど、エーベルシュタイン殿下も素晴らしい方だ……」  一国の王子に声をかけられたことに、よほど感動したのだろう。アルブレヒトのファンであるミヒャエルだが、しばらくの間エーベルシュタインのことを話していた。  ミヒャエルの話に相槌を打ちながらも、リーラの頭の中は既に午後の実技のことでいっぱいだった。  特待生ということもあり、筆記であればどの科目も高得点を取ることができるリーラが唯一苦手としているのが、実技科目だ。  僕の魔法力でも、こなせる内容だといいんだけど。そう心の中で思いながら、指定された教場へ向かった。

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