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第7話
北海道営業所の面談も夕方には終わり、今度は札幌から仙台に移動する。途中、空港でチェックインを済ませると福嶋が時計を確認する。
「オンボードまであと五十分ですか。少し自由時間にしてくれませんか?」
「了解です、僕も午後の流れを確認したいので、そこに座ってますね」
「OK」
社内の備品や会議室管理とは違い上司のスケジュールを一人で担うのはそれなりのプレッシャーだ。さらに一日の行動を把握しておかないと、次の予定を聞かれた時レスポンスが早くなければ小姑のため息が返ってくるせいもある。
宿泊するホテルの場所まで頭に入れふと顔を上げると、そろそろ時間なのに福嶋が見当たらない。
探し回っていると有名なアニメシリーズの公式サテライトショップ前に行き着いた。
主人公カズが全国津々浦々、野菜や果物の妖精を収集していく冒険ストーリーは日本のみならず世界で認知されており、アニメに詳しくない了ですらあらすじを知っている。
そのショップの中でもう見慣れてきた背中を発見した。
「福嶋…さん?」
スーツ姿で長身の大人が顔を壮大にほころばせ、子供に混じってきいろのぬいぐるみをいくつも両手にだき抱えていた。それはパイナップルの頭と犬に似た胴体を持つコリーノというキャラで、シリーズの中でも一番人気を博す、常にカズの横にいるバディ的存在だ。
オフィスでのすましたポーカーフェイスからは考えがたい、異様な光景だった。
会計を終え戻ってきた福嶋はビジネスバッグの他に大きい袋をふたつも携えていた。了に見つかってしまい開き直ったのか胸を張って言い放ってくる。
「コリーノの限定パイロット衣装は、新千歳空港でしか売ってないんです。この機会を逃すといつこの地に降り立つかわからないですから」
「知るか!」
昂然たる態度で説明されて新しい上司相手に思わずツッコミが口をついて出てしまった。
「さっきからなーんかそわそわしてるなとは思っていましたよ。機会をうかがっていたわけですか」
「幾つになっても少年の心を持ち続けるのは悪いことでしょうか?」
「ということは、ただの個人的な趣味なんですね」
「他に何がありますか」
「向こうの親戚のためとか、友人の子供のためとか一応フォローは考えましたけどね。…って、そういえば」
不意に頭をよぎったのは初めて会った時福嶋に言われた一言だった。
「ま、まさか『アニメに出てくるような交友的で癒し系のサポーター』ってリクエスト…その袋いっぱい詰まってるぬいぐるみイメージしてたんじゃないでしょうね」
「バレちゃいましたか」
なんでもないように福嶋は肩をすくめる。
「初めて了を見て、コリーノが現実にいたらまさに君に違いない! と興奮しましたよ。特にこぼれ落ちそうにくりっとした目元が、うり二つです」
わざわざぬいぐるみをひとつ袋から取り出し、了の顔の横にかざしてみせるのではたきたくなった。
「こ、公私混同甚だしいですよ!」
「人聞きが悪いですね、ちゃんと根拠もあります。総務から人を取ったのは、管理業務やタイムマネジメントが得意だろうと推測したからです。あとはどうせ三ヶ月もずっと一緒に仕事するなら少しでも癒されたい、と」
「やっぱりめちゃめちゃ私情挟んでるじゃないですか」
「了はぽやっとしているし思った以上に英語できないから業務的には不安でしたけど、むしろ慣れなくて必死な姿が癒やし効果絶大でした」
「あの…オフィスでたまに僕が困ってたりあたふたしたりするときに限って福嶋さん僕のこと見てますよね? 僕はてっきり、部下の失態を見物して面白がってるのかと思ってましたが、それもまさか」
「どんな極悪人ですか、私は。あららー焦ってる、可愛いなあと思ってほっこりしてるんですよ」
じっと甘い表情で了を熱心に眺めているので、ストレートのはずなのにどういうことだと疑問に思っていたが、ようやくその理由がはっきりした。
ただのアニメオタクに、勝手に脳内でこのふやけ顔のキャラクターを重ねられていたのだ。
今更だが、数ある場面でしてきたドキドキを返して欲しい。
了は上司の前で初めて思いっきりため息を吐いた。
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