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第13話

 そんな中、営業の木崎から合コンの誘いがあった。 「社内メンバーで今週金曜日。五対五で集めてるから、まあ割とわいわいやるかんじかな。佐高ずっと彼女いないって言ってたじゃん。出会いのチャンスだろ」  木崎は社内でも顔が広く、よくこういう手の飲み会を企画する。以前会食場所の助言を仰ごうとした人物もこの友人で、フットワークの軽さはとても営業向きだと感心している。 「うーんどうかなあ」  ゲイであることは秘密にしているし、元々みんなで飲むのは好きなので普段は断らない。  でもこのところ福嶋のせいで落ち込んでいるから、歯切れが悪い返しをした。 「実はさ、佐高のことがいいって言ってる子も来るんだよ。まあどうこうなくったっていいじゃん。佐高、最近仕事詰めだろ? 軽い気分転換ってかんじで飲みに来いよ。な」  沈んだ気持ちのまま不特定多数とわいわい談笑するのはおっくうだったけれど、強く押す木崎に断る気力もなく参加する運びとなってしまった。  金曜日、会議用資料のデータ打ち込みをしていたが、終わりが見えず午後七時前になって諦めた。  プロジェクト解散、つまり福嶋の秘書という役目を終えるまで残り二週間になったところだ。 「福嶋さん。この会議、火曜でしたよね」 「ええ。月曜の午後までに揃ってれば大丈夫ですよ」 「三分の一まで出来たんですが、一旦ご確認されますか?」 「必要ありませんよ。全部終わってから見ます」  お許しは出たが休日を挟み何かあったら困るので途中経過をプリントアウトして鞄に詰めた。 「では僕はこれで帰らせていただきます」 「おや、早いですね?」 「はい。会社の、飲み会がありまして」  ああそうなんですねーじゃあお疲れ様でした、とすぐ離してくれるだろうという予想に反して、福嶋がぴくりと片眉を上げた。 「…飲み会?」 「あ、はい。同期が組んだ、カジュアルなものですが」  すると最近めっきり見なくなっていたあの張り付き笑顔が久々に現れた。 「へえええ。いいですねええ、みなさん面識はあるんですか?」  上がる言葉尻が、ドアノブに触れて一瞬流れる静電気のようにぱちぱち痛い。  今日は始業からさっきまで普通だったのに、急に福嶋は不機嫌になっていた。 「いえ、僕もどんなメンバーかはまだ知らなくて」 「なるほど。そういう集まり、ちゃんと参加するんですねぇ了も」  やることやるんじゃん、みたいな言い草になんとなく居心地が悪い。  なおも尋問は続く。 「何人来るんですか?」 「えっと、たしか五対五って言ってたから…」  そこで止まっていたキーボード音が、今度は猛烈にカタカタと鳴り始めた。資料と画面を見比べながらそれでも福嶋はまだ解放してくれない。 「それって男女比率のことですか?」 「そ、そうです」 「ふううううん、つまり合コンってやつですね」  ビームが出る数値が十だとすれば九くらいのほぼマックス笑顔で福嶋は何度か頷く。  しかしそれ以上追求はせず福嶋はたん、と強くエンターキーを押してようやくこちらに目を向けた。 「ではどうぞ大いに楽しんできてくださいね、合コン」 「は、はい…お先失礼します」 「お疲れ様」  退勤して了は早足で事前にメールで送られていた、最寄り駅付近の指定場所に向かった。

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