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黒鳥の湖 16

 世を動かしているα達が忙しいのはよく分かっているけれど、ここの規則として基本的に客との性交渉はΩの発情期のみに限定されている、そのために改めてその時期に来て貰うように言われたのが不服だったらしい。  ぶちぶちと文句を言われてしまうと、会話をしたくなくても口を開かなければならなくなって、溜め息混じりの声が出た。 「子供のことを考えて、お薬は抑制剤も含めて極力避けるようにしております。また、ヒート時以外の性交渉も、オメガの体を慮って遠慮して頂いておりますので」 「…………」 「旦那様にはお手数をお掛けして大変申し訳ございませんが、これも多くの健康な子を産むためとご容赦いただけれ  っ」  横に並んだ時宝の睨みつけるような視線に気付いて、思わず言葉が止まる。  ここの規則とは言え、自分が世界の中心と思っているαにとっては面倒なことなのだろう。  オレじゃどうしようもないことをだったけれど、不興を買ったのは間違いなさそうだった。  怒鳴られるかな って、唇を噛み締めて言葉を待つ。 「どうしてそんな堅苦しい言葉遣いなんだ」 「だ  旦那様 です、 ので」  内容ではなくそこに文句があるとは思わず……しどろもどろと返すオレに溜息が落ちてくる。 「ここは慇懃すぎてかなわん」 「申し訳ござ   」  ぎろりと睨まれて言葉を探した。 「   ────ごめんなさい」 「お前が謝ることじゃない。そう言う規則なんだろ」  ぽんぽん と頭を撫でられてしまって、そろそろと視線を上げる。  相変わらず険しいと言うか、きつい視線なんだけど見られていると思うと妙に安心してしまう。 「艶のある髪だな」 「ありがとうございま   ありがとう」  黒髪は、確かにオレの自慢だ。  その髪を時宝の手が撫でて、コシを確認するようにくるりと指に巻き付けては解くを繰り返す。それがくすぐったくて、でもとめるのは嫌で、もじもじと身を揺すりながらその手が髪の感触を堪能するのをぐっと堪える。 「いい手触りだ」 「    」  犬か猫でも撫でている感じなのかなって 思う。  最初に出会った時にこうやって髪を触らせていれば、オレを選んだのかもって言うどうにもならないことを考えてしまって……髪の間をすり抜ける男らしい指に擦り寄りたくなったけれど、でもオレにはそんな権利がない。  時宝は蛤貝を選んだんだから、時宝は蛤貝の旦那様だ。 「  ──── お戯れもその辺りで」  そう言って時宝の手を押し退けた。  怒り出すかと思っていたけれど、時宝は戸惑ったように手を引っ込めてからそっぽを向いてしまった。自分で払ったくせに、温かで気持ちのいい指がもう一度撫でてくれないかと期待すると共に、蛤貝に発情期が来ればこの手が蛤貝を抱くのかと思うと、どうしようもなく陰鬱な気分になってしまって……  結局、門までの道のりをお互い何も話さずに歩き続けた。

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