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落ち穂拾い的な 先黒手

 毬をころころと転がすと、向かいに座る手がそれを取り上げてまたころころと転がして返す。  端から見ればひどく退屈しそうなその遊びを、二人は飽きることなく繰り返している。それを見せられているこちらとしては、じりじりと焦る気持ちが滲んでくるのを先黒手達はわかっているのだろうか? 「  まぁ、まぁ、まぁ」 「腹を立てるものではないわ」  くすくすと笑い合う姿にぐっと奥歯に力が入るけれど、何か言い返すことはできなかった。 「何かお話があって来たのでしょう?」 「……はい。那智黒と蛤貝のことでございますが、本当にこのままでよろしいのでしょうか?」  先黒手の示した方針に異議を唱えることは許されることではなくて、畳についた手がぶるぶると震える。  けれど、今回の那智黒と蛤貝のことに関して先黒手達の判断は理解できないことばかりだ。  神田が蛤貝を迎えに来たら?  たったそれだけで全て瓦解すると言うのに…… 「やはりすべてを話して蛤貝ではなく那智黒と契約していただいた方が   」 「それじゃあ駄目なのよ」 「そうよね、それでは駄目」  ふふふ と鈴を転がしたような声で笑う先黒手達に不気味さを感じて、ぐっと唇を引き結ぶ。 「ですが、神田様がいらっしゃれば蛤貝は   っ」  ぽん と小さく毬が跳ねたせいで軌道が反れ、見詰めていた手元へところころと転がってくる。  色とりどりの糸であしらわれた複雑な文様はじっと見詰めていると眩暈を起こしそうで、失礼かと思ったけれどそれに手を伸ばして先黒手の方へと差し出す。 「心配しなくとも」 「神田家の息子はもうこないわ」 「そうね」 「そうよね」  何を言って と言葉を返そうとした私の手から毬が取り上げられる。  はっとして顔を上げると青い光を弾く瞳と目が合って……  いつ見ても不気味だとは、口が裂けても言えない。 「……申し訳ございません」  その瞳に見つめられる居心地の悪さにさっと頭を下げる。 「きっかけがいるのよ」 「きっかけなのよね」  毬を受け取って先黒手は機嫌が良さそうだ。  ぽん と毬の転がる音が響き、話は終わりだとでも言うように先黒手達の鈴を転がしたような笑い声だけが聞こえてきた。 END.

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