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雪虫2 36

「街中も周辺にも死角がないようにカメラがつけられてるし……」 「目立たないように隠れているのかもしれない。夜になって移動すれば多少は人目を避けれるし、混雑もないからね」 「それでも、カメラには映るから  っ」 「ないルートがあるかもしれない」 「そ そんなこと言ったら 何もできないっ」  た とセキの目尻から耐え切れなくなった雫が画面の上に落ちて揺れる。  それが丁度、『天藍海岸』と書かれた上に落ちて……  震えて歪に歪むそれを見て、ふと思い出した。 「籠城を前提とした……」  ぽつん と口から零れた言葉は、今この状況にはまったく関係がないせいかセキも瀬能も気に留めた様子はなかった。 「海に引っ付くようにして、建てられた、稜堡式城郭……」  止まらない言葉に、瀬能が怪訝な顔をしてこちらを向く。 「張り巡らされた地下通路と……その崖下には、…………」  道に迷って尋ねた駅の職員に、滔々と話された城の説明が頭の中で繰り返される。  あの時、駅員は何て言っていた?  ────秘密裏に、海から逃げるための……  ひっ と吸い込んだ息が音を立てた。 「先生っ!あとをお願いしますっ!」  制止の声を振り切り、瀬能に言われてオレを掴まえようとした黒服の男をすり抜ける。  水谷に比べたら、ここに居る男達の動きなんてゆっくりすぎて避けるのに苦労はなかった。  きつく握りしめた拳を振って、鬱蒼とした公園へと全速力で走る。  水谷に言われて毎日長距離を走ってはいたけれど、それでも吸い込む息が苦しくて……喉が痛んで悲鳴を上げるけど、そんなことはどうでもいい。  オレの肺が潰れて、それで雪虫の所へ行けるって言うなら……  今日は風が強いのか、公園が見え始めた時には微かに潮の臭いは鼻を突いた。それをきっかけに足を止めると、そのまま崩れ落ちたくなるような倦怠感を覚えてふらりと体が傾ぐ。  首を巡らせて見てみるとセキが見せてくれた地図の場所に違いない。 「ここから……」  次のタグのチェックがある場所までは進まずに向こうに行ったんだろう。  建物の多い街中に行けば、必ずどこかでタグのチェックかもしくは監視カメラに引っ掛かる。  だから、ここから海岸に抜けたんだ。 「公園内のカメラはまばらだし、海岸に監視カメラはつけられていないから 」  そして、かつて籠城のために建てられた城の抜け道である地下道を辿れば…… 「海に出ることができる」  街中を通って街を出るよりもはるかに見つからずにここから逃げることができる。

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