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雪虫2 37
強い海風が運んで来る生臭いとも思えるような潮の香りに混じる微かなソレに、どっと脈が跳ね上がった。
間違えようのないソレは、寒い寒い冬に咲く花のような甘い匂いだ。
「……雪虫」
残り香のようなソレは風が吹けばあっと言う間に掠れてしまい、今にも消えてしまいそうで……
雪虫らしい儚いソレを感じることのできる自分の鼻を、初めて褒めてやりたくなった。
どうと言うことはない木々の植わった細長い公園を抜け、鼻が……と言うよりも、本能が訴えるままに足を動かし走り出す。
瀬能に言わせると元来匂いなんて無いはずのものを、こうやって感じると言うのはオレと雪虫の繋がりがそれだけ濃いのか、それともそれを感じることが運命だと言うのか。
「……ここ、か」
駅員がオレに嬉々として城の説明をしていた際に、立ち入り禁止になっている地下通路の入り口の場所をつるりと零していた。
些細な話だったし、オレ自身城に対して興味を持つ質じゃないから本当なら忘れててもおかしくなったんだけど、近頃よくなった記憶のせいかなんなのか、それとも雪虫のお陰なのかやけにはっきりと覚えていて……
地下通路の出入り口の場所自体は滅多に人が行かないような場所にあるせいか、ブロックやコンクリートで塞がれていると言うわけではなく、草臥れた木の板を立てかけてその前を色褪せたカラーコーンで入らないように と注意書きがされているだけだった。
その気になれば悪ガキならば入り込んでしまうんじゃないかって、こんな状況なのに全然関係のないことを思う。
なぜなら、そうやって別のことを考えてないと今すぐ叫び散らしながら地下通路に飛び込んで、雪虫の名前を繰り返し呼んでいただろうから。
「ここ だよな 」
擦れて角の丸くなった木の板に手を添えるとざり とした感触が返ってくる。
海風のせいか磯の香りのせいか雪虫の匂いは何も感じることが出来なくて、隙間から中を覗いてその先の暗闇に一瞬身が竦んだ。
じっとりとした空気と、普段入ることのない先の見えない真っ暗な空間と……
飲み込まれる恐怖感にごくりと唾を飲み込む。
「あ セキにれんら 」
そう言うも、いつも携帯電話を入れている尻ポケットはペタリとして触るまでもなく、そこに何も入ってないってわかってしまう。
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