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雪虫2 38
大急ぎで……と言うか、止めるのを振り切って飛び出してきたんだけど、携帯電話くらいは持っておくべきだった。
辛うじてタグはつけたままだけど……
雪虫のものと同じだから、結局はオレのタグの信号も同じ位置で動かなくなる訳だから、ここにいると気付いてもらえるかどうかは、正直わからないとしか言えない。
今更ながらにちらりと後ろを振り返って、黒服のうちの誰かでもついて来てはしないかと期待してみる。
……が、トラックが突っ込んで皆が右往左往してて、挙句大神が事故に遭ったと知らせがあったきりなのだから、オレなんかを気に掛ける奴はいないのかもしれない。
「 ────っ やめっやめだっ!」
ぱしんっ!と一発大きく頬を両手で叩き、この期に及んでもまだ誰かに頼ろうとした気持ちを振り払う。
直江もセキも瀬能も、それにあの黒服の男達も結局は大神側の人間で、優先順位からしたらオレや雪虫は大神に比べたら圧倒的に低い。
こんな状況が重なった状態で甘えられると思う方が間違っている。
ぐっと立てかけてある木の板をずらすと、軽いんじゃないかと思っていたのに針金で隣と繋げてあるせいか思いの外重量があって、思うように動かないことに気づく。
往生際が悪いのは百も承知だし、悪足掻きだってわかっているけれど、全身の力を使ってその木の板をずりずりと動かして通路に日の光を入れてみる。
日差しが強くなってきたとは言っても、城の地下にまで続く通路すべてを照らせるわけもなく、せいぜい入り口から数歩だけを明るく照らす。
長い間日に晒されていないのが分かる剥き出しの通路の表面は、それだけでじっとりとした湿気を含んで重苦しい雰囲気だった。
「…………」
それでも、
「 雪虫の、 」
微かな甘い匂いがして……
例えそれが黄泉への道行だったとしても、オレは引き返したりはしなかった。
寒さに体を震わせると、その振動で手の中の小さな小石が幾つか零れ落ちて土を叩く。
固められた冷たい土に頬をつけた状態で、いったいオレは何をしているんだろうかと、事情が呑み込めないままに体を動かそうとしてはっと息を詰めた。
先程小石が立てた音を、『やつら』が聞いてやしないか と。
意識がはっきりとした瞬間、脳裏に鮮やかに蘇ったのはオレを背後から襲った硬い腕の感触だった。
地下通路に入った当初はその一筋の明かりもない状態に戸惑いもしたけれど、幸い真っ暗だ と思っていた最初の内だけで、目が慣れて来てしまえば内側を固めている土が白いせいか辺りがほの明るく見え、歩くのには問題はなかった。
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