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落ち穂拾い的な 雪虫の願いは……

「  普通の生活がしてみたい」  萎れたように、今にも消えてしまいそうなそのΩが望んだのは簡潔なことだった。  やっと熱が下がった雪虫の傍で、しずるが甲斐甲斐しく擦り下ろしたリンゴを一口ずつ掬っては雪虫に食わせてやっている。  食事くらい自分で……と思うも、それすらできないほど体力が落ちてしまったのだから、俺が口を挟むことではない。 「体を起こせるようになったんだな」 「…………」  雪虫を危険に晒したことをしずるは未だに許せていないらしい。  返事をすることなくぷい とそっぽを向いてしまった。  殴りつけても良かったが、番を危険に晒されて怒りを覚えないαがいるのかと考えると、握りそうになった拳を開くのは容易だった。  αにとって、Ωは……  性的搾取の対象であったり、ただの蒐集対象だったりするが、それでもその根底にあるのはどうしようもない独占欲だ。  奪い、囲い、閉じ込め、愛で、食らい尽くしたい。  暴力的とも言えるその先にあるのは額づきたくなるような感情だ。  そんな相手を危険に晒した俺を、しずるは許さないだろう。 「雪虫」  そう名前を呼ぶと青い瞳が不安げに揺れてしずるへ助けを求めるように揺れる。 「お前のこれからの話だ」 「  あの家に、帰れる?」  か細い声は掠れて今にも途切れてしまいそうだ。 「……だめ?」  外にも出られず、家の中で漂うクラゲのようにしか過ごせなかったと言うのに、それでもあそこへ帰りたいのだろうか? 「もうあの家はない」 「  っ」 「もっと他の言い方があるだろ!」  今にも噛みついてきそうな勢いで言うしずるを無視して、雪虫をひたと見つめると怯えたように身を縮めて俯いてしまった。 「もう人が住める状態ではないんでな」  修復も考えたが、もともと間に合わせに買い求めたのもあって、築年数を考えると更地にしてしまった方が建設的だ。 「   そっか」 「もう外ではお前の安全を確保しきれない。研究所へ移ってもらう」  そう告げるとはっと瞳が揺れて……  泣くのだと思った。 「しずるには、会える?」  潤みそうになった瞳をきっとこちらに向けて、雪虫はそう問いかけてくる。  いつもなら怯えたままだっただろうに……  歯型のついた首をしゃんと伸ばしてこちらを真っ直ぐ見詰め返す姿に、番を得たことで雪虫の中で何かが変わったんだと教える。 「ああ」  そう返事をしてやると、雪虫は少しの間だけ悲しみの表情を浮かべた後にこくりと素直に頷き、しっかりとした目でこちらを見詰めた。  か弱いだけだと思っていた姿に、ほんの少しの強さを秘めて…… END.

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