168 / 714

落ち穂拾い的な 呪いではなく祝い

 研究所の一室で、瀬能が何やらパソコンに向かう片手間に赤飯のおにぎりをもぐもぐと食べている。  飲み物などは飲むこともあったが、食事は「行儀が悪い」と言ってどんな時でも手を止めて食べていた印象があったために、珍しいことだった。 「お茶でも、淹れますか?」 「ああ、そうだねぇ」  そう言うと瀬能が手を止めてくるりと椅子を回す。 「せっかくだし、君に淹れて貰おうか」 「せっかく?」  備え付けのポットと、たぶん徳用のお茶。  赤飯はちょっと特別感があるけど、お茶は別にいつも通りだから何が『せっかく』なのかわからない。 「なんです?そう言えば受付の机の上にもあったような……」  研究所の入り口の受付にいたおっちゃんの机の上に置いてあった記憶がある。おっちゃんのしみじみとした「よかったねぇ」の言葉の意味がわかんなくて、そっちばっかり気になってたけど…… 「セキくんが配り歩いてるよ」 「はい?それを?」 「綺麗な三角に握るよねぇ。彼、握るの上手なんだね」  ってことは手作りか。  なんだ?  大神がセキの手作りを配り歩くなんてこと、許すとは思えないんだけど? 「…………」  なんだか急に嫌な予感がむくりと頭をもたげる。 「それ、なんの赤飯なんですか……」  思い当たる言葉に思わず語尾が震えて……  赤飯がお祝い事の際に出される って言うのは一般的だ。  祝いって?  それって…… 「ナニって、君の脱!どうて  「わああああああああっ」  大声を上げて言葉を遮ると、瀬能が鬱陶しそうに片眉を上げて最後の一欠けらを口に放り込む。 「なんだい?大きな声を出して」 「わぁぁぁぁぁぁぁっそれっそれっ……っ!ど、どこまで配られ れ、れれ、えええええーっ」  受付にまで配られているって段階でお察しだ。    そうか……それで受付のおっちゃんの生温い目だったのか…… END.

ともだちにシェアしよう!