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落ち穂拾い的な 温泉
ぴちょん と水滴が露天風呂の水面に落ちて波紋を作るのを見ながら、礼儀作法の教科書にでも載っていそうな体勢で左右を見る。
龍に、鬼に、鯉に、それから弁天様や弥勒菩薩……
カラフル過ぎて目が回りそうだ。
何より傍らにいる脊椎に沿う倶利伽羅と龍と小鬼にびくびくしながら動けずにいた。
「やぁー相変わらずいい湯だね、ここは」
そして挟むようにして反対側には瀬能。
幸い瀬能には刺青はなかったけれど、その代わりと言わんばかりに体中は傷だらけで、大神や他の会社員(と、言い張っている人たち)と同じくらい派手な体をしていた。
変な人だとは思っていたけれど、某漫画の闇医者のように怪しい人なんじゃないかって思えてくる。
「そうですね」
「もちょっと嬉しそうにしなよー、セキくん置いてきたのがそんなに嫌だったのかい?」
「違います」
オレを挟んでそんなやり取りをしてくれるけど、正直ここから出たい……
雪虫の誘拐の件がひと段落した頃、いきなり社員旅行に行くぞって連れて来られたのがこの旅館だった。
一目見てやばいものを背負っている人たちだってわかるのに、若い女将はにこやかな笑顔で受け入れてくれて……
他のお客の迷惑になるんじゃあってハラハラしていたけど、豪華なこの旅館にはオレ達以外の人影はない。
貸し切りって奴なんだろう。
それが安易にできてしまえるものなのかどうなのか、オレには判断がつかなかったけれど……
「お背中流しましょうか?」
「ああ」
他の黒服の人たちは全裸でお湯を楽しんでいると言うのに、直江だけは服を着たまま大神の傍らに控えている。
せっかく来ているのだし、他の黒服たちも慰安だと言ってのびのびとしているのだから、一緒に入ればいいのに。
ついでにこの位置、替わって欲しい……
「しずる」
「ひゃいっ」
「水谷がうるさかったと言うこともあるが、お前の慰労も兼ねている、のんびりするといい」
そう言って立ち上がる大神を見上げて……
思わずヒュ となって股間を押さえた。
濁り湯だから気づかなかったけど……あれ、人間のなの?
「ぷっ 」
思わず視線が大神を追っかけたのを瀬能に見られたらしい。
見ていた理由もバレているんだろう。
いや、だって、アレはない。
アレはないって。
「自信喪失して使い物にならなくなったら去勢させてね」
「なんでそうなるんですかっ!自信なんて……自信……なん 」
そう強がってみるも、大神の股間にぶら下がっていたブツを見ると、気持ちもアレもしゅんとしてしまう。
オレの息子スティックは……うん、標準だと思いたい。
「サイズはともかく、形えぐいよね~」
「あ、あ、あれって、さすがに後付けですよね?」
「うん、そう言う手術あるよ、してあげようか?」
「やですよっ!」
「まぁ改造すると勃ちが悪くなることもあるしね」
そうか、改造ち〇ちんなのか……
「昔はこーんな小さくて可愛かったのにねぇ」
そう言う瀬能の人差し指と親指は五センチくらいを示している。
一体ナニのサイズなんだか……
「はぁ、いつの間にあんなに可愛くなくなっちゃったんだか」
「昔からの知り合いなんです?」
「うん、大神くんのお父さんと同級でね」
そんな深い関わりがあるんだったら、瀬能の体の傷に理由もおのずとわかるもので……
「あ、これは全然関係ないからね」
「考えてること読まないで下さいよっ」
視線がつい、瀬能の体についた傷跡を追っていたらしい。
新しいものはないけれど、その古傷は大怪我と言ってもおかしくないものが多い。
「これはねぇ、階段から落ちたの。こっちはねぇ、酔っぱらいに絡まれた時ので。こっちはいきなり飛び出してきた野生動物が 」
「野生動物に遭遇する状況がわかんねぇよ」
まぁ、原因を言う気がないってことなんだろう。
そんないろいろな理由で体中傷だらけになるなんて、さすがに信じられない。
胡乱な表情をしていたのか瀬能は苦そうに笑って、「背中流そうか?」って尋ねかけてきた。
END.
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