179 / 714
苦い人生 4
悌嗣の様子がおかしいことに気づいたのはいつだったか。
いや、おかしいなって思う機会は度々あったんだけど、悌嗣が甘く囁いてくれる言葉とか態度とか、あとそれから……こんな体のオレの傍に居てくれるって言うことに引け目を感じて、何も言えなかった。
「ヒタさんの彼って、えっちうまいの?」
「う゛…なんでいきなり そんな話なの」
普段それなりにわきまえた酒の飲み方をするカラスちゃんだけど、今日はちょっと酒が進み過ぎているようだった。
人の下の話は余り聞いてこない客だっただけに油断していた。
「だって全然話してくれないしぃー……彼氏さんはアルファだっけ?」
「ん うぅん」
そう言うと少しきょとんとされたけれど、「そっかぁ」で流してくれた。
αとΩじゃないと白い目で見られることはよくあったから、ちょっと身構えていたんだけど……
「で、上手いの?」
「ちょ、ちょちょ……ま、あ うん。かなり 」
他に客もいなかったし、圧し掛かるようにカウンターに身を乗り出されては答えるしかなかった。
「優しい?」
「そ りゃ とっても 」
オレの答えを聞いて、カラスちゃんはちょっと唇を尖らしたようだった。
「どうしたの?拗ねちゃって 」
「だってっ!あいつら っあいつら、もうちょっと俺の体を労わってくれてもいいと思うんだ!」
『あいつら』って言うのはカラスちゃんの番のα達のことだ。
α達……
双子だからって説明されたけど、普通は二人のαに噛まれたからって二人と番になんかなれない。だけど三人が番なのは間違いないようで、二人のαの性欲を受け入れるのに四苦八苦しているようだった。
「若いからって体力頼りのことばっかしてっ‼」
ダンって強くカウンターを叩くから、グラスが小さくカタン て音を立てる。
「でも、気持ちいいんでしょ?」
「だ、だけどっ 加減がわかってないからさぁ」
ぐっと拳に力が入る。
「もうちょっと経験値があればって思うよ……」
今度はオレの拳に力が入る番だった。
経験値……
オレは悌嗣が初めての相手だったけど、多分、悌嗣はそうじゃない。
一度尋ねた時は照れながら、「お前が初めてだって」ってぼそぼそ答えてくれたけど、オレに経験がないからこそわかるものもある。
巧みだなって。
馴れてるなって。
気持ちのいい所に全部当ててくるなって。
だから、悌嗣にはそう言うことをする相手が、多分、いる。
ともだちにシェアしよう!