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苦い人生 4

 悌嗣の様子がおかしいことに気づいたのはいつだったか。  いや、おかしいなって思う機会は度々あったんだけど、悌嗣が甘く囁いてくれる言葉とか態度とか、あとそれから……こんな体のオレの傍に居てくれるって言うことに引け目を感じて、何も言えなかった。 「ヒタさんの彼って、えっちうまいの?」 「う゛…なんでいきなり  そんな話なの」  普段それなりにわきまえた酒の飲み方をするカラスちゃんだけど、今日はちょっと酒が進み過ぎているようだった。  人の下の話は余り聞いてこない客だっただけに油断していた。 「だって全然話してくれないしぃー……彼氏さんはアルファだっけ?」 「ん うぅん」  そう言うと少しきょとんとされたけれど、「そっかぁ」で流してくれた。  αとΩじゃないと白い目で見られることはよくあったから、ちょっと身構えていたんだけど…… 「で、上手いの?」 「ちょ、ちょちょ……ま、あ  うん。かなり  」  他に客もいなかったし、圧し掛かるようにカウンターに身を乗り出されては答えるしかなかった。 「優しい?」 「そ りゃ  とっても  」  オレの答えを聞いて、カラスちゃんはちょっと唇を尖らしたようだった。 「どうしたの?拗ねちゃって  」 「だってっ!あいつら  っあいつら、もうちょっと俺の体を労わってくれてもいいと思うんだ!」  『あいつら』って言うのはカラスちゃんの番のα達のことだ。  α達……  双子だからって説明されたけど、普通は二人のαに噛まれたからって二人と番になんかなれない。だけど三人が番なのは間違いないようで、二人のαの性欲を受け入れるのに四苦八苦しているようだった。 「若いからって体力頼りのことばっかしてっ‼」  ダンって強くカウンターを叩くから、グラスが小さくカタン て音を立てる。 「でも、気持ちいいんでしょ?」 「だ、だけどっ  加減がわかってないからさぁ」  ぐっと拳に力が入る。 「もうちょっと経験値があればって思うよ……」  今度はオレの拳に力が入る番だった。  経験値……  オレは悌嗣が初めての相手だったけど、多分、悌嗣はそうじゃない。  一度尋ねた時は照れながら、「お前が初めてだって」ってぼそぼそ答えてくれたけど、オレに経験がないからこそわかるものもある。  巧みだなって。  馴れてるなって。  気持ちのいい所に全部当ててくるなって。  だから、悌嗣にはそう言うことをする相手が、多分、いる。

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