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苦い人生 7

  「うん!おかえり」  そう言ってやると、仕事帰りで疲れた表情をぱっと明るくして悌嗣は嬉しそうに駆け寄ってきた。 「ただいま、あー……快斗だぁ」 「なんだよ、当然だろ?」  肩に倒れ込むようにして凭れ掛かって、すんすんと鼻を鳴らしてオレの匂いを確認すると、「いい匂いがする」って言ってぎゅうっと抱き締めてくる。  悌嗣からは外の匂いがして、その奥から悌嗣自身の匂いがして……  悌嗣が言ういい匂いって言うのは、フェロモンの匂いじゃないってわかっているけど、それでも少し熱っぽい感情を込められて言われるとゾクゾクするほど嬉しい。  その嬉しさが腹の奥にぽっと火を灯すような感覚を引き起こす。  焦れるような腹の底の感じは、オレがこれから発情期に入るんだって合図でもある。   「風呂溜めてあるけど?」 「うん、それから?」 「えと……ご飯も作り置きしておいたし」 「それで?」  促されて言葉が詰まる。  この時期ならではの悌嗣の意地悪なんだけど、される方はたまったもんじゃない。 「ベッドシーツも替えたし、枕元に水分も置いてある よ」  もうここまでにしてくれって思うのに、悌嗣のちょっと意地悪そうででもオレをじっと見つめる目は動いてはくれないから、観念してぼそぼそと声を出す。 「ん、……だ、抱かれる準備は全部できてるよ」  そう言うとくしゃっと破顔して、更に「んっ!」って促す声を出してくるから…… 「  っ っ、て 悌嗣に抱いて欲しいっ」  ぱぁっと嬉し気に満面の笑みを浮かべる悌嗣はオレを抱え上げると、今にも鼻歌を歌い出しそうな雰囲気で風呂場へと駆けていく。 「ちょ、ちょ スーツ掛けないと!皺に  」 「皺なんかいいって!」 「良くないよ!」 「うーっ ちょっと降ろすよ!」  渋々そう言うと悌嗣は慌てた手つきでスーツを脱いで放り出す。  皺になるからっって言ってるのに悌嗣は気にしないらしい。  放り出されたスーツを拾おうと屈もうとしたらいきなり腰を掴まれて引っ張られてしまう。 「わっ!待ってって!スーツ掛けるくらい 」 「待てない」  オレの慌てた声を裂くように告げてくる悌嗣の声は真剣で、茶化して返すことができなかった。  何年経っても……恥ずかしくなってしまうオレと違って、悌嗣はふざけるなんてしない。 「じゃ、その  」  せめて簡単にでも畳もうとしたけれど、その前に床に組み敷かれてしまった。

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