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苦い人生 11

   もじもじとするオレに苦笑を見せて、くるりと体を反転させてベッドの上へと戻ってくる。   「ちゃんとスポドリ飲んだか?塩分タブレットは?」 「飲んだよ」 「じゃあ、覚悟はいいな?」  取られた手にちゅっと口付けられると、それだけでオレのスイッチが入るのを悌嗣は良く知っていようだった。      薄暗くなった部屋の中で目を覚ますと、体は鉛のように重い。  何とか動く腕をシーツに這わして悌嗣の存在を探ってみるもベッドの上に存在はなくて、温もりすら見つけることができなかった。  ひやり とした不安感に跳ね起き、薄く光を漏らしている扉の方へと駆け寄る。 「  ────そうです、そのファイルです」  聞こえてきたのは普段の砕けた調子ではない、仕事で使う余所行きの声だ。  いつもの雰囲気とは違う真面目な声音に、邪魔しちゃいけないと握るドアノブから手を離した。 「  ────すみません、いつもお休みいただいてしまって。はい、はい、戻りましたら埋め合わせは……はい、ありがとうございます、よろしくお願いします」  声の調子は固くて……  幾らつかたる市がバース性の人間にとって住みやすい社会環境に整えられているのだとしても、各会社に勤める個々人の感情まではどうにもできない。  オレの発情周期に合わせて三か月に一度、まとまった休みを取らざるを得ない悌嗣はその度にこうやって頭を下げているのかと思うと、思う存分に抱き合えて嬉しかったと思えた気持ちが萎んで行くようだった。  悌嗣は何も言わないけれど、そんな社会生活を送ることに不満はないんだろうか?  申し訳なくなってずるずるとその場に座り込んで、悌嗣とさんざん愛し合ったベッドを眺める。 「  オレはヒートだからそう思わないけど、悌嗣は……辛くないのかな  」  発情期の間はとにかく腹の底が焦れるような欲求が酷くて、夢中になって悌嗣を求めてしまうけれど、悌嗣はそんなオレとは違ってずっと素面だ。  Ωの出すフェロモンにあてられてαのようにラットになるわけでもない、幾ら気持ち良くても……男には賢者タイムと言うものもあるし、そんな時にふと思ったりはしないんだろうか?  オレとの生活が面倒だって。 「…………」  今のところ、Ωの発情を抑えるのは薬かパートナーとの性行為しかない。

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