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苦い人生 14
「そいつ、結婚もしてるんだよね」
「最低っ!」
「でしょでしょ、でもオメガの発情セックスが忘れられないんだってー!」
ふてるように言い放たれた言葉は大きくて、こちらが赤面してしまいそうになる。
「その人はオメガと結婚しなかったの?」
「ベータだったからね、会社の上司の娘さんとお見合い結婚したんだ」
「あ、そう なんだ 」
「なーんか、結局それ目的なだけって言われると、オメガであることがなんか ……最近は、あいつらのこともあったから、この性で良かったなって思ってたんだけど」
男女の性別を抜きにしても、Ωとの発情期のセックスは極上なのだと聞くことがあった。
ただ、オレには比較のしようもないし、悌嗣が満足そうにしてくれているって言うのだけはわかっていたけれど……
上司の娘との結婚生活を棒に振る可能性があるにも関わらず、それでも連絡を取って来たと言うことはそれだけ魅力的なのか?
「あの時は、こんなことになるなんて思わなかったから自由にしてたけどさ、こうやってなんかあると馬鹿なことしたなーって思っちゃうよね。どうせ運命なんて出会わないんだから なんて、今になったらどうしてそんなこと思えてたのか不思議だけど」
「……運命って、やっぱり、違う?」
ぽつん と尋ね返したオレの言葉はなんだか小さな子供が尋ねかけたような、そんな心細さが滲み出していたのか、カラスちゃんはちょっと苦笑して答えを迷っているようだった。
多分、悌嗣がαじゃないって知っているからだ。
「ごめ 困らせるつもりはなくて っ」
「いやいや、なんて言おうか迷っただけだよ。うーん……安心感が違う かな。絶対守ってくれるんだって思えるような、そんな感覚が段違いだと思う。って、言ってもこんなのは信頼感で変わってくるもんだし、ヒタさんとこみたいに長年連れ添ってたらこんな感じなのかなって思ったりもするし」
あはは って陽気に笑って見せるけど、最後の方はただのこじつけだ。
オレを落ち込ませないための……
愚痴を聞かなきゃいけないのに、お客に気を遣わせるなんて駄目だなって反省しながら新しいグラスを取り出す。
「一杯奢るけど、何飲む?」
そう言ってウィスキーの瓶をちゃぽんと振って見せると、一瞬顔をぱぁってさせてから気まずそうに視線を逸らしてしまった。
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