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苦い人生 15

  「少しぐらいなら大丈夫でしょ?まさかもうソコにベビーがいるってわけでも  」 「や  多分、なんだけど、   」  もごもご と口ごもる姿を見た瞬間、鈍器で胸を殴られたかのように息が一瞬詰まる。 「ごめん、イライラしてたの、それもあるかもで……」  また前のようにただの騒動じゃないのか?って言葉がすぐそこまで出かかったけど、今回はそんなバタバタしたことではないんだろうから、居るか居ないかわかんないんだけど……なんてあやふやな話じゃないんだろう。  ぐっと喉が詰まるような感覚を何とか飲み下しながら、叩きつけるようにしてカラスちゃんが閉めた扉の方を指差す。 「それでお迎えがきてるんだ」  お迎えって言うよりもストーカーと思った方が良さそうだけれど。 「えっあっあいつらっ!」  今度はスツールを蹴倒す勢いで立ち上がる。  店の扉をうっすら開けて、同じ顔がその隙間からちょろちょろとこちらを窺っているのには、カラスちゃんが飛び込んできた時から気づいてた。  この三人の仲の睦まじさは……番だからなんだろうか?  片時も離れたくないとカラスちゃんにしがみつく二人を見ていると、ほんのわずかの疑いも抱かせないほどカラスちゃんのことを愛しているのが分かる。  悌嗣も、……悌嗣が、αだったら、オレはこんな思いをしないで済んだんだろうか?      来た時と同じようにばたばたと帰って行ったカラスちゃんは、少し怒っている風であったけど二人の番に挟まれて幸せそうだった。  店に飛び込んできた時の憤りなんて霧散してしまって、すっかりでれでれとした顔になっていた。  幸せそうな、いい笑顔だった。 「  ────お!おかえり!よかった!俺がいるうちに帰ってきた!」 「えっえっ 」  いつも通り出社準備をしている悌嗣がバタバタと洗面所から飛び出してくる。 「急に出張行くことになってさ!」 「ええ⁉」 「いつものだよ」  そう言って悌嗣は旅行鞄を持ち上げた。 「あ ああ、あれか」  いつもは悌嗣の同僚が行く出張があるのだけれど、その人の?その人の番の?発情期に重なってしまった時は悌嗣が代わりに行くことになっている。  持ちつ持たれつだからって悌嗣は笑っているけれど、三日間の出張はやっぱり寂しい訳で…… 「きゅ、急だね 」 「今回はなんかリズムが崩れたとかなんとか?まぁお互い様だし」 「ん  」  事前に分かっていたら、ちょっと悌嗣成分を補給しておいたりもできたのに…… 「んな顔すんなって、ごめんって」  顔に出したつもりはなかったのに悌嗣はネクタイを締める手を止めて、代わりにオレの頬をくすぐってくる。

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