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苦い人生 17
「だぁってベータ同士でいいじゃない!なんでぇ オメガとなんてズルイっオメガなんて結局ははんしょ むぐっ」
繁殖のための性 と続くのだと言うのはわかった。
彼女の口を塞いだ連れが申し訳なさそうに眉を八の字にして頭を下げるのに、苦笑いを返して首を振る。
今でこそ面と向かって言われることは無くなったし、それを公言しようものなら冷ややかな目で見られるのは言った本人だけれど、昔からあるこの手の感情が消えることはないんだろう。
男女だけで子を成せる人々ばかりの世界で、オレ達Ωがどれだけ奇異の目で見られているのかは、平等を謳い実際に憂いの少なくなった世界になった今でも痛感するばかりだ。
「なによっヒートのときだけだからってぇ!」
「ちょ ホント、今日はもう帰ろ?」
「やぁだぁ」
水をグラスに注ぎながら泥酔客の言葉にチクチクと痛む胸を擦る。
彼女の彼が、Ωと浮気をしていたのだそうだ。
三か月に一度の発情期に合わせて休みを取り、出張と偽って浮気相手のΩとホテルで引きこもり生活を送っていたのを、何かの拍子に知ってしまったらしい。
「オメガなんかとっどうせ発情したあいつが無理にせま っ」
「もういい加減にしなよっ!ほらっ! あっ」
連れがぐいっと引っ張り上げた拍子に差し出そうとしたグラスに当たってひっくり返った。
ぱしゃん って小さくて可愛らしい音と、ジワリと体が濡れて行く感覚に思わず固まってしまう。
「きゃっ すみ、すみませ 」
「あ、いえ、お気になさらず」
一人では立てない彼女を支えて、連れは真っ青な顔をして慌てて頭を下げる。
その拍子に彼女の体がグラグラするから更に慌てるようにして彼女を抱え直すと、代金にしてはずいぶん多い金額を差し出してきた。
「すみませんっ本当にすみません!また改めて謝罪に伺いますが、とりあえずクリーニング代も含めて」
「水ですから大丈夫ですよ、お酒を飲まれてのことですから」
正規の金額だけを受け取ると、彼女は申し訳なさそうに繰り返し頭を下げながら帰って行った。
転がったグラスは名残のように水滴を残して、鈍く鈍く室内の光を反射してどこか鋭利な刃物のようだ。
三か月ごとの、出張……
幾ら抑制剤の質が良くなってΩのフェロモンが出なくなったとしても、発情を完全に抑え込めるわけじゃない。
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