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苦い人生 18
月に一度と言われていた発情期が抑制剤を飲むことで、サイクルを伸ばすことができるようになったとしても、今現状こればっかりはどうしようもなかったそうだ。
現在、Ωの発情期のサイクルは三か月ごとが一般的で……
悌嗣が同僚の代わりに出張に行くのも三か月ごとだ。
理解はしている、
Ωの同僚の代わりなのだから、相手も三か月サイクルなんだって、分かっている。
普通なら疑うなんてばからしいって思うくらいの話なのに……
落ち着かない気分になってしまうのは、悌嗣にちらつく他の人間の影のせいだ。
「…………バカらしい話だよな」
そう呻きながら閉店作業を終えて一息吐く。
夏場だしすぐに乾くだろうと放っていた服は肌に貼り付きはしないけれど、重く感じる程度にはじっとりと湿って気持ちまで引きずり落そうとしているようだった。
家に帰っても、悌嗣がいない。
そう思うと帰るのが億劫だったけれど、ここに居るとあの泥酔客が叫んでいたことを思い出して自然と眉根が寄る。
こんな時には声でも聞けたらって携帯電話を見ながら店のソファーに腰掛けた時、まるでタイミングを見計らったように手の中が震えた。
小さなバイブ音は気のせいなんかじゃなくて、そろりと画面をのぞき込むと『悌嗣』の文字が映っている。
「えっあっなん、なんでっ⁉」
生活スタイルが全然違うから、店の終わるこんな時間に悌嗣から電話がかかってくるなんてことは今までにはなかった。
二度三度確認してみるもやっぱり悌嗣からの着信だし、切れる気配はない。
「 ────あ、の 」
そろり と電話に出てみると、つっかえるような悌嗣の呼吸が聞こえて、それからゆっくりと溜息を吐き出すのが分かった。
「今、店か⁉」
「うん、片付け終わってそろそろ出ようかなって」
そう言うと詰まるような気配がして、やはりまた溜息が零れる。
「寝ぼけて掛けてきた?」
「や 違う」
「間違えてかけたのか?」
「違う、ちょっと、声が聞きたくて」
そう返事を返す悌嗣の声音は、何かあったことを誤魔化そうとしているかのように少し荒々しいものに聞こえる。
「え と、今日帰ってくるのに?何かあったの?」
「あー……」
歯切れ悪くもごもご言う悌嗣に苦笑を零しながら、鞄を持ち上げた。
悌嗣の居ない部屋に帰るのは億劫だったけれど、こうやって声を聞きながら帰れるなら寂しさと言うか、虚しさも紛れると言うものだ。
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