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苦い人生 22

「指、温まった?」 「ん  」  興奮しているからか、熱い口の中で指を転がすとあっと言う間に体温が移ってじんわりと痺れるような感覚が指先に灯る。 「じゃあ、一本だけ挿れていいよ」 「えっ」  思わず上がった声は一本じゃ不満だと言うオレの心中を一瞬で相手に伝えてしまった。  喉の奥で笑いを堪えるようなくつくつとした小さな音が響いて、オレは恥ずかしさと悔しさにぐっと唇を引く結ぶしかできない。 「な、なんで今日はそんな意地悪なんだよ!」  焦らすようなことを言ったりして!  いつもはもっと、優しいし、オレが望むままに気持ち良くしてくれて……  体温のない、こんなやり方のセックスなんてしたいと言い出すような奴じゃない。  出張先で何かあったんだろうか?  こんな、普段なら眠っている時間に電話を掛けて来なくちゃいけないような、そんなことが。  いつもと違うことがしたくなるような、ナニか、が、あった? 「こんなの、いつもはしないだろ?」 「あー……たまにはいいだろ?」  まともな返事ではなく、誤魔化すようにも聞こえるその言葉に、体温の逃げてしまった指先を力なく降ろした。  霧散したそれは、もう戻ってこないのは自分自身が良くわかっているから、乱れたシャツを下ろしてのそのそと放り出された下着とスラックスを掴み上げる。 「ちょっと、無理」 「は⁉」 「そんな気分じゃなくなった」 「ちょ なんで⁉笑って悪かったって!」  ガタガタ と電話の向こうから慌てて立ち上がったのか、けたたましい音がして音が乱れた。  どうしてそんなに慌てる必要があるのか、  何があって、オレにこんなことを求めているのか、    仕事でのことなのか、  それともプライベートなことなのか、    聞き返すことができない言葉で胸の中が苦い。 「なぁ、頼むよ」 「だ だって  」 「じゃあ、俺がしてる間だけこうやってそこで聞いてて」  時折、悌嗣が甘える時に出す雨に打たれた子犬のような哀れを誘う声音に、苦い胸の内を抱えながらもオレはよろめくようにソファーに戻った。  何かおかしいって思っても、  どうして?って尋ねることができなくても、  それでも悌嗣にねだられると突っぱねきれない自分がいて…… 「……オレ は、もうしないよ」 「うん、それでいいからさ、ちょっと声聞かせててよ、それだけで十分」  はぁー……て深く吐かれた溜め息は、どう言う意味なのかな? 「ねぇ、何か喋って」 「ん  出張どうだった?」 「いや、そう言うんじゃなくて」  はは と苦笑が零れる。

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